研究を通じて見えてきた、自分の「持ち場」

――一高の研究を通じて、見えてきたことは。

高原 私みたいな訳の分からない人でも生きていける社会にしたいと思っています。この間、官庁に入った同級生と飲もうという時に、「今、内閣官房で危機管理担当なので官邸から2キロ以上遠くに出られない」と言われて、そういう世界があるんだなと思いました。そういうことはその人たちにやってもらうとして、私にはまた別の「持ち場」があるんだと思いました。

――「持ち場」とは?

高原 それぞれの役割ですよね。特に文系の学生は、就活なんかでとても悩むと思いますが、私みたいな生き方もあるわけです。後輩には「高原さんがいると、それでいいんだと安心します」って言われていますよ。舐められているのか何なのか、よく分かりませんが(笑)。

――18年いて、東大の変化を感じますか?

高原 最近は、研究室でも大学全体でも、できるだけ早く卒業をさせようという流れがあるんです。「流動化」と呼ばれるんですが、コスパ、タイパを上げようという流れですね。東大にもその波が確実に来ています。厚みのある研究には時間が必要ですが、理系や経済社会に合わせてどんどん「早く、早く」と。本末転倒なんですが。

――いわば高原さんは、大学の「就職予備校化」にも抗っている。

高原 結果的にですけどね(笑)。なので、大学の後輩には「反タイパの権化」などと言われています。

――先のことを考えると不安になりませんか?

高原 不安がゼロとは言えませんが、例えば研究員になれれば御の字ですし、行政書士の資格も持っているのでそういった仕事をしようかなと、考えています。

――将来の夢は何ですか。

高原 絵空事ですが、博士論文を書いて博士号を取ったら、今度は司法試験を受けて、弁護士資格を取りたいと思っています。その上で、専門的な学術の話と、プロとしての法律相談ができる、「喫茶公事宿(くじやど)」というお店を開きたいなと思っています。

「公事宿」というのは、江戸時代にあったリーガルサービスをしてくれるお宿です。訴状の書き方なんかを教えてくれる弁護士事務所みたいなもの。そんな名前で、お客さんがふらっと来て、学問の話もできるし、なんなら法律相談もできるという喫茶店です。もちろん弁護士会がそういうものを副業として認めるかどうかは分かりませんが。