「オソが死んでたみたいだよ」深夜の電話から“牛襲う忍者グマ”の最期をスクープした「クマ担」記者が語る“ヒグマ危機”(伊藤 秀倫) #4

クマの腸を引きずり出して…手負いのヒグマと格闘、一命をとりとめたハンターが恐怖心を押し殺して“現場”に立ち続ける理由〉から続く

2023年8月21日夜、何気なく開いたニュース速報が意味するところを理解した筆者は思わずのけぞった。

〈「オソ18」駆除か 牛66頭襲う雄ヒグマ 7月に釧路町で〉

速報は北海道新聞が配信したものだった。記事はこう続く。

〈釧路管内標茶、厚岸両町で2019年以降、相次いで牛を襲ってきた雄のヒグマ「オソ18」が駆除されたとみられることが21日、関係者への取材で分かった。クマは同管内釧路町で7月30日にハンターによって駆除された。関係機関が駆除された個体のDNA型鑑定をしており、最終確定を進めている。(中略)猟友会関係者によると、釧路町内で7月30日に駆除されたクマについて、DNA型鑑定の結果、オソ18の可能性が高いという連絡があったという〉

7月に? 釧路町で? 本当にOSO18なのか……? 混乱する頭で画面をスクロールし、記事を書いたのが〈岩崎志帆〉という記者であることを知った。完全なる北海道新聞「クマ担」のスクープだった。(全4回の4回目/#1から読む)

捕獲が確認されたOSO18の姿(釧路総合振興局提供)

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「オソが死んでたみたいだよ」

私自身、OSO18のことは、「OSO18特別対策班」リーダーの藤本靖(NPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」)に取材し、何本か原稿も書いていたので、自分なりに最終決着を見届けたいと考えていたが、既に終わっているというオチは考えもしなかった。

以来、スクープした岩崎記者の名前を紙面で見かけるたび、どのような人なのだろう、と気になっていたのだが、実際に会ってみると「なるほど」と思わされるものがあった。一見、おっとりしているように見えるが、どんな質問にも慎重に真正面から答えてくる芯の強さがある。埼玉出身で、2015年の入社をきっかけに北海道へ移住したという。

「あのスクープは岩崎さんが?」と尋ねると岩崎はまずこう言った。

「あれは、私というか、会社全体で、という感じです」

その日、岩崎は遅めのお盆休みをとって、「自宅でのんびり」しているところだった。夜9時ごろ、携帯が鳴った。相手はキャップだった。

「猟友会関係者から別の記者に『オソが死んでたみたいだよ』と一報があった、という連絡でした。もう、泡を食いましたね(笑)。慌てて会社に向かいながら、『釧路に向かったほうがいいんだろうか』とかよくわからないことをいろいろ考えて。で、他のメンバーと手分けして“裏取り”を行って、ある段階で確信が持てたので、電子版で速報を出したという形です」