大谷翔平選手は大リーグのドジャースと10年7億ドル(約1015億円)という「スポーツ史上最高額」の契約を結んだ。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「1996年にアメリカで起きた規制緩和をきっかけに、アメリカ、欧州のプロスポーツでは選手の給与が上がり続けるバブル状態にある。日本との給与格差は今後ますます広がっていくだろう」という――。
MVP授賞式でスピーチする大谷
写真=時事通信フォト
MVP授賞式でスピーチする大谷(=アメリカ・ニューヨーク、2024年1月27日)

世界のスポーツ史を塗り替えた大谷翔平の3年間

日本人アスリートが海外で記録・記憶を残したターニングポイントとして思い当たるのはいつだろうか。

1995年に野茂英雄がMLB(米国メジャーリーグ)・ドジャースに単身渡った年。

中田英寿がイタリア・ペルージャに移籍した1998年。

イチローがメジャーシーズン最多安打記録を打った2004年と安打世界記録ギネスとなった2016年。

大坂なおみが日本人初のグランドスラムをとった2019年など、色々あるだろう。

だがそれらと比較しても、この3年間はあまりに特別であった。

大谷翔平が史上初リアル二刀流でオールスター出場した2021年、メジャー史で104年ぶりに2桁勝利2桁ホームランを打った2022年、MLB史上初の2度の満票(全米野球協会の記者30人全員が大谷に投票)最優秀選手賞(21・23年)を取り、10年7億ドルという世界スポーツ史上最高額の契約をドジャースと取り交わした2023年。

空前絶後、前人未踏。日本人アスリートとしてだけではなく、世界中のアスリートと比較してもおよそ誰も到達したことのない記録ずくめだったこの3年間は、スポーツ史を大きく塗り替えたといって過言ではない。

ダルビッシュと松井とイチローを合わせたような

デビューの2018年の9月に右ひじ損傷が発覚し、トミー・ジョン手術を受け、投手としては2020年、打者としても2019年まで復活できないと言われたスタートであったからこそ、余計にこのストーリーは劇的に人々の心を打っている(それでもイチロー以来17年ぶりの日本人による新人賞を2018年で獲得しているが)。

3年目の2020年はコロナが猛威を振るい、ファンの応援もない中で不調を連発。後半はスタメンも外されるような状況だった。

投手・打者の二刀流という1918~19年のベーブルースという100年前の事例以外なかった“現実離れしたドリーム”を実現しようとする大谷に反対する声も多く、2021年は大谷自身が「本当に、今年はラストチャンスかなというくらいの感じだったと思います」(『Number』2021年9月9日号)と述べている。

2021年4月27日に投手として1072日ぶりの白星を挙げるなど、約3年間も実績が出せなかった中で、2021年の活躍は目覚ましかった。翌22年は驚愕きょうがくし、23年になると評するすべがないほどの存在になった。

大谷を「ダルビッシュと松井とイチローを合わせたような選手」と形容するアメリカのファンもいたほどだ(志村朋哉『ルポ大谷翔平』2022朝日新書)