私立医大学学部の倍率はなんと26.2倍

2021年時点において、全国にある医学部の数は82校で、うち防衛医科大学校を含めると国公立大学が51校、私立大学が31校です。これらすべての入学定員は約9400人と、1万人にも届きません(図表1)。

一方、医学部志願者数は約13万人です。先ほどの入学定員をもとに単純計算すると、倍率は13.8倍で、13〜14人の受験生のうち、たった1人しか医学部に合格できないのです。

私立大学医学部だけの倍率も算出してみましょう。

私立大学医学部の志願者数が約9万4000人であるのに対し、定員は3584人でした。倍率は26.2倍と、驚くべき数字になっています。

なぜ、医学部の志願者倍率はこんなに高いのか。その背景には、次の4つの要因があります。

安定したい理系人材が医者を選んでいる

①理系受験生の安定志向

1つ目の要因は、以前であれば、東京大学や京都大学などといった難関大学の理系学部を目指していたはずのレベルの受験生が、工学部や理学部ではなく医学部を目指しはじめたことです。

日本が順調に成長していた時代においては、偏差値の高い大学を卒業した理系人材が活躍できる企業がたくさんありました。しかし、いわゆる「失われた30年」で日本企業の勢いは衰え、偏差値の高い大学を卒業した理系人材が満足できるような質・量の研究を続けることが難しくなっています。

そんな状況において、多くの受験生が「大企業に就職したからといって安泰ではない」「医師であれば、どんな時代でも安定した収入が得られるし、生活に困ることはない」と考えるのは、自然の流れのようにも思えます。

日本の医師免許には、更新や定年の制度がありません。医師免許を取得した人は、自ら職を退くと決めない限り、ずっと働き続けることができます。

今後AIがますます発達しても、医師という職業がなくなることはありません。高齢化に伴って需要が減少することも考えにくいでしょう。この視点で見ると、医学部志願者数の増加の理由を、医師という職業の持つ特性に魅力を感じる受験生が増えていることで説明することもできるでしょう。