「大統領の妻への忖度」という見方も…
ただ、それでも法律まで持ち出すのは如何か、という声もある。日本の官僚の知人は「私だったら、そんな法案は立案しませんけどね」と語る。韓国の元政府関係者も「法律は、食べたら違法とはしていない。人間の食文化を縛ることへの遠慮があったのかもしれないが、それにしても、度を越しているという印象も残る」と話す。
こうした「違和感」のためか、韓国の政界雀たちの間で、色々な「評論」「分析」が飛び交っている。中心にいるのは尹錫悦大統領の妻、金建希(キム・ゴンヒ)女史だ。金女史は2022年の大統領選中から、愛犬と一緒にいる姿をSNSで発信するなど、ペット好きの人物だということが広く知れ渡っていた。
最近では、2023年12月の尹大統領のオランダ訪問に同行した際、アムステルダムで動物保護団体の関係者と面会し、「犬の食用禁止は大統領の公約だ」と説明していた。韓国大統領室も犬食禁止について尹大統領の国政課題の一つに含めるなど、法制化に積極的に関わってきた。
ここで、韓国の政界雀が騒ぐのが、「金建希女史への忖度」だ。強い夫婦愛はもちろん、実際に一緒にいる時間が長いことから、金女史の尹大統領への影響力には定評がある。
「金女史の怒り」がうわさに
例えば、2023年4月に夫妻が訪米した際、韓国の人気グループBLACKPINKと米国のスター歌手、レディー・ガガの合同公演を巡っても、「金女史の怒り」がうわさになったことがある。「金女史は合同公演に乗り気だったのに、国家安保室が費用や日程の問題から消極的な対応に終始した。金女史は激怒し、結果的に儀典秘書官や外交秘書官、最後にはトップの金聖翰(キム・ソンハン)室長が次々に辞める事態に発展した」というものだった。
韓国政界関係筋の1人は「常識で考えて、金女史がいちいち国政に口を突っ込むことは考えられない。でも、忖度こそが韓国の政治文化。尹大統領夫妻、特に金女史が犬の食用禁止に熱心だというのは周知の事実だ。そうなれば、自然と事務方の対応も熱を帯びるというものだ」と語る。
また、従来、犬の食用禁止を巡っては、市民団体の影響力が強い進歩(革新)勢力に比べ、業界団体の保護などの観点から、どちらかといえば、保守勢力の慎重な姿勢が目立っていた。保守が立法化に動いた背景の一つには、「尹大統領夫妻への忠誠心」があるのではないか、という声も政界関係者から出ている。