「やったことないし、分からない」困った上司の思考回路

ではなぜ、このような新規事業あるあるは起こってしまうのでしょうか。上のような困った経営層や上司は何を考えているのでしょうか。

VUCAの時代と言われるように市場環境の変化が激しく先が読めなくなっています。そんな中、既存事業だけに依存するのではない、いわゆる両利きの経営が必要となっています。

しかし、日本の多くの企業においては、会社を支えている経営層や管理職の多くが主力となる事業の中で経験を積み、成功してきた人です。そういう人たちは新規事業の創出に取り組んでこなかったため、経験・知見に乏しく先の困った上司となっているのです。困った上司は、今に始まったことでも急に増え始めたわけでもありません。新規事業探索に取り組む会社が増える中、そうした困った上司の存在が顕在化しているのです。

このような新規事業創出経験がない上司は、一般論としての新規事業創出論は知っていますが、本当のところは「新規事業創出と言われても、自分はやったことがないし、どのように新規事業を生み出していったら良いか分からない」のです。さらに自分に良いアイデアがあるわけではないので「まずは、どんな可能性がありそうか探ってみよう」と丸投げのようになってしまうのです。そこにはさらに、「制約なく柔軟に発想してもらった方が」「1人ではなく、みんなで考えた方が」良いアイデアが出るだろうとの思いも働いています。

「みんなに考えてもらい、色々提案が出てくれば、その中から良さそうなものを選んで、更に検討していけば良いのではないか」と考えているのです。

黒板に電球と良いアイデアの言葉を描く子供の手
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調査すればするほど沼にはまる担当者

それに対し、新規事業検討にアサインされた担当者は、期待を感じ一生懸命に新規事業の可能性を検討し始めます。具体的な指示が無い中「世の中の動きから期待される分野」「自社の強みから、勝てそうな分野」「自分たちの身の回りで見聞きする、なんとかしたい分野」などから、具体的なビジネスアイデアを考え始めます。いろいろ検討していく中で、良いアイデアも出てきます。しかし、アイデアだけで上司に話しても「アレはどうなのだ」「コレはどうなのだ」と分かっていないことを指摘されそうに思います。そこで、上司に聞かれそうな事を一生懸命に調査していきます。しかし、調査を進めても分からないことだらけです。さらに調査をするほど上司に指摘されそうなことがますますでてきてしまい、いつまでたっても終わりません。担当者自身も新規事業創出経験がないので、いろいろなことが不安になってくるですが、完璧を求めそうな上司になかなか話ができません。そのような状態のまま最終報告を迎えてしまいます。

そして最終報告の場で「そんなの、やって意味あるの?」となってしまうのです。