65%のウオッカを「消毒用アルコール」に
第二の創業。その意識が加藤の中で3年かけて育ってきていたところへ降って湧いたのがコロナ禍だった。だから加藤は「急に」目覚めたわけではない。「世のため人のため」という教えを意識しつつ、もし自分が手がけるなら明利酒類はどういうビジョンで経営すべきかを念頭に置いて、博報堂のハードワークに向かっていたのだ。
「家族のため、家業のため、地域のため」という行動の軸を定め、まずは会社の生き残りのために何ができるかを考えた。半年間は無給で仕事をします、と社長である父に伝え、経営の実権を握らせてもらうことにした。決死の意気込みを示すために「毎朝、深呼吸してから父の椅子に座らせてもらいました」。そして若手社員を集めてプロジェクトチームを立ち上げる。
すると「第二の創業」を目指す加藤の前向きな熱が伝わったのだろう、社員たちの目が輝き出した。「会社としてはつらい時期でしたが、プロジェクトに集まる若い人たちは生き生きと働いてくれました。『部活みたいですね』と言ってくれる人もいました」(加藤)
加藤と会社にとって幸いだったのは早めに成果が出たことだ。アルコール度数を65%まで高めたウオッカ「メイリの65%」を、当時市場から払底していた消毒用アルコールの代用品として発売し、注目を集めたのだ。「プレスリリースとSNS発信を駆使して話題にし、20万本を売ることができました。まずこの『小さな勝利』を示せたことが社内の信頼を得るために大きかったと思います」と加藤。博報堂仕込みのマーケティングの手腕が生きたのだ。
生き残りのめどがついた今は、「第二の創業」の真っただ中だ。
「1本3万3000円のプレミアム日本酒『雨下』を発売し、アメリカにも売り込みます。また弊社としては60年ぶりにウイスキー事業に参入するべく新ブランド『高蔵モルト』の蒸留を始めています。まずはこの2本柱を将来の主力事業として育てます」(加藤)。今のところまだ父を支える常務取締役だが、「世のため人のため」社業を背負う覚悟は十分である。(敬称略)