「ライドシェアは危険」論者が見落としていること

ライドシェア導入については、これまで「安全性に問題」として、タクシー会社などが強く反対してきた。彼らの主張のひとつに「OECDの8割でライドシェア禁止・規制」がある。しかし、禁止と規制では大違いだ。自由放任型ではなく、利用者の安全を確保するための一定の規制の下で認可されている国は、アメリカやイギリスなどのほか、インドや中国をはじめとする東アジアにもあり、大手の企業が積極的に参入し、一大ビジネスとなっている。

導入反対派がその根拠としてしばしばあげる「米国のウーバー(ライドシェア)では、性犯罪率が日本のタクシーよりもはるかに高いから危険」というものもある。だから、日本でもウーバータクシーを認めたら、客やドライバーが性犯罪の危機に瀕すると言わんばかりだ。しかし、これは性犯罪の定義にもよるが、もともと米国の性犯罪発生率自体が著しく高いためで、比較対象を日本ではなく、米国の既存タクシーと米国のウーバーとするべきだ。統計を恣意しい的に利用しているようにしか見えない。

出典=「第1回 地域産業活性化ワーキング・グループ」の國峯専門委員御提出資料より

日本のタクシー運転手は著しく高齢化して事故率が高く、本来、運転免許を返却してもいい年齢層の70歳以上が29%(2022年)を占めている。これと一般のドライバーのうち、運転経験年数が長く、無事故・無違反者に限定したライドシェアと比べて、どちらが乗客にとって安全だろうか。

タクシー会社では、万一の事故の際の補償などを行っているというが、これはライドシェアの運営会社にも同じ規制を課せばよい。毎朝の飲酒チェックはできないが、これはタクシー運転手の2割を占める個人タクシーでも同様だ。

素人のドライバーに乗車した場合、最短距離で到着できないのではないか、といった心配も耳にするが、ナビ搭載車であれば問題はなく、むしろ距離に応じた定額料金のため、遠回りしてタクシー代をボラれることも回避できる。

出典=「第2回 地域産業活性化ワーキング・グループ」の川邊委員御提出資料より

政府案の問題点

今回、検討されている、「タクシー会社が一般ドライバーを雇用する」ことを前提とした日本型の仕組みには、ライドシェア事業を事実上、タクシー会社が独占化するという大きな弊害がある。

もっとも、タクシー会社以外がライドシェアに参入する「全面解禁」については、「年明けから議論を始め、来年6月をめどに考え方を示す方向」としたことは、従来の国交省方針よりも前進といえる。しかし、これは「解禁を前提に、タクシー会社との対等な運営ルールの策定について検討する」とは大違いであり、いくらでも先延ばしが可能な玉虫色の表現だ。

ライドシェアは、ドライバーと利用者が予め登録され、事前に年齢や性別、過去の利用時の評価などの下で互いに選択できる、いわば「会員制クラブ」である。利用者側からすれば、食べログなどで飲食店を格付けする仕組みをドライバーに適用して、その評価をもとに乗る・乗らないの取捨選択ができるようになる。これと不特定多数の乗客を対象とし、誰でもタクシーアプリを使える既存タクシー事業とでは、ビジネスモデルが大きく異なる。

この2つの異なる仕組みをタクシー会社が一括して運用すれば、乗客への配車の際には常勤のタクシー運転手が優先され、それが不足する際の代用としてライドシェアが用いられるだろうことは容易に想像できる。

その結果、専業運転手の少ない深夜帯などに、ライドシェアのドライバーが事前に正体不明の乗客を乗せることにもなりかねない。それではドライバーにとってのリスクが大き過ぎ、ライドシェアのなり手が増えない可能性がある。

ライドシェアのドライバーを雇用しなければならない、と主張するタクシー会社は、その理由として、不安定雇用を防ぎ、労働基準法で守るためだ、という。しかし、米国のウーバーなどで不安定雇用が多いのは、職業運転手になるのが難しいためだが、日本では専業のタクシー運転手は不足しており、大歓迎される点が大きな違いだ。。

日本のライドシェアのドライバーは、本業の傍ら、副業で稼ぎたい人たちが大部分である。むしろ本業との関係で制約のない業務委託での働き方が望ましく、それが抑制されれば、やはり希望者は少なくなろう。

タクシー会社に雇用されなければ仕事ができないという、世界に例のない方式のライドシェアでは、一般ドライバーの応募者が少なくなるのは自明のことである。

逆にタクシー会社は、ライドシェア運営会社を排除でき、タクシー会社の独占事業は維持できる。ドライバー応募者が少なくても、「やはりライドシェアは日本では受け入れられない」と言えばよく、犠牲になるのは交通難民が解消されない一般の利用者である。