「性的いじめ」は性加害ではなく単なる「いじめ」と思われがち

暴行や脅迫が用いられる際も、性を用いた暴力という点は隠されることがあります。例えば、「性的いじめ」について考えてみましょう。加害者たちは特定の人を無視したり、暴言を投げつけたり、暴力を振るったりなどさまざまな行為の中で、性を用いた暴力を使います。

「いじめ」という一連の言動の中に性が紛れ込むと、そこに加害者の性的な動機を見つけにくく、身体の弱い部位を狙ったということで、性的な行為が性暴力としてではなく、いじめの一環として位置付けられることになります。

紛争下における男性や男児への性暴力についても研究で徐々に明らかになっていますが、性を用いた暴力は、統計上は非常に少ないものだと見なされていました。それはその加害が身体への暴行や拷問として計上され、性暴力として反映されていなかったからだと言われています。ある紛争下の報告書では男性や男児に2%の性暴力被害があったとされましたが、それらの証言で性器に対する暴力など複数の形態を含めてカウント調査したところ、29%まで上がったということです。

「半沢直樹」で描かれた男性への性的なパワハラシーン

2020年に放送されたドラマ「半沢直樹」(続編)では、失敗した部下を叱り、その際に性器をつかんで痛みを与えるというシーンがありました。その描写では性暴力という視点よりも、それに反応して足を閉じてしまう男性がコミカルに描かれ、その場にいた全員が注目し、白けた視線を送っていました。

宮﨑浩一、西岡真由美『男性の性暴力被害』(集英社新書)
宮﨑浩一、西岡真由美『男性の性暴力被害』(集英社新書)

性器をつかむことや、そこを蹴ることは、ふざけていること、単に弱い部分を狙っただけということにして、性的ではないような印象を与えることができます。パワハラやいじめといった「性的」要素が含まれないようなラベルを貼り、性暴力を隠すことができるのです。

同性間の性暴力に関しては、ホモフォビアに晒されその被害を開示しづらいことがあります。加害者も同様にそのレッテルを貼られる可能性がありながらも、それはあまり重視されません。なぜなら、ある行為が性暴力だと定義し伝える必要があるのが、常に被害者の側だからです。加害者のほうからは同性間の性行為ということを明らかにする必要がありません。さらに、「女性化」という性差別をもとにした力関係では、加害したほうが男らしく表象されるために、より隠れやすくなると言えるでしょう。

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