「ヤバい」「エグい」「スゴい」は万能型の心情表現
翻って、昨今の子どもたちの様子を観察していると、そのときどきの心情を表すストックがかなり限定的であるような気がしている。たとえば、何か事が生じるたびに「ヤバい」「エグい」「スゴい」……このような表現がすぐに口をついて出てくるような子はいないだろうか。そして、子どもたちに国語の指導をしていると、これらの表現を連呼する癖が付いてしまっている子ほど、国語の読解問題で苦労しているように思える。
それでは、先述したように日本語には数多くの心情表現があるのに、なぜ「ヤバい」「エグい」「スゴい」といったお決まりフレーズに頼る子どもたちが多いのか。
「ヤバい」についての例文を見てみよう。
① 次の授業で宿題の提出なんてあった⁉ ヤバい、何もやっていない……。
② 昨晩明け方まで起きていたからか、眠すぎてヤバイ。
③ 彼の悪口を言っていたら、どうやらそれを聞かれていたみたいでかなりヤバい。
④ あの曲聴いていたら泣けてきてヤバイ。
⑤ この前、俳優の○○を街で見かけたんだけど、ヤバかった。
② 昨晩明け方まで起きていたからか、眠すぎてヤバイ。
③ 彼の悪口を言っていたら、どうやらそれを聞かれていたみたいでかなりヤバい。
④ あの曲聴いていたら泣けてきてヤバイ。
⑤ この前、俳優の○○を街で見かけたんだけど、ヤバかった。
上述した①~⑤の傍線部「ヤバい」はそれぞれ別の「心情表現」に置き換えられることが分かるだろう。たとえば、①は「まずい」「動揺する」など、②は「つらい」「しんどい」「苦しい」など、③は「うしろめたい」「気まずい」「うろたえる」「やましい」など、④は「感動」「切ない」「感傷的になる」など、そして⑤は「かっこいい」「感極まる」「感嘆」など……。
「ヤバい」の起源は江戸時代
「ヤバい」とは「不都合であったり危険であったりする」ことを本来意味することば。江戸時代、「やば」は「盗人などが官憲の追及がきびしくて身辺が危うい」ときに発した形容詞とされている。1990年代には若者たちの間で「格好悪い」の意で用いられるようになったが、2000年前後からはマイナスの意味だけでなく、「とてもよい」「格好いい」「とてもおいしい」「楽しい」「感動する」などといった肯定的な意でも使い始められたのである。