良識的な上司がやりがちな失敗「困ったときはお互いさま」
では、こうした難局に対して、上司はどのようなマネジメントを行うべきか。良識的な上司が部下たちに語りがちなのは、「困ったときはお互いさま。互いにフォローし合うのが職場の仲間じゃないのか」という言葉だ。これは一見、チームワークを大切にする“良き職場の常識”のように思える。
しかし、休職しないまでも、残された部下たちもそれぞれ大小さまざまな事情がある。育児や介護と仕事を両立させている家庭は、日頃から十分忙しい。障害や疾病のある家族を抱えた家庭も同様だ。また、今後増えるであろう副業や兼業をするケースでは、職場以外での仕事時間のやりくりも切実だ。部下たちが健康維持や自己啓発、リスキリングなどに励む時間も、今や軽視できない。そうしてみれば、個々に事情を抱える残された部下に休職者の仕事を“お互いにフォローするのは当たり前”という総論のみの説明で割り振るのは、安直過ぎるのではないだろうか。
「お互いさま」では、必要な休みすら遠慮してしまう
また、休職する社員にとっても、「お互いさま」の掛け声だけでは不十分だ。近年注目されている男性の育児休業を例に見てみよう。
育児・介護休業法の改正によって、2022年10月1日から産後パパ育休(出生時育児休業)が取得できるようになった。男性に対して従来の育児休業とは別に、出生後8週間以内に4週間までの休業を与えるもので、2回に分けて取得できるなど柔軟な運用が特徴。今後の活用促進が期待される制度の一つだ。
しかし、既に育児休業制度が整備された職場でも、男性が取得を希望するものの結果的に断念したケースは多い。調査報告からその理由(複数回答)を見ると、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」(38.5%)、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」(33.7%)、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった」(22.1%)、「収入を減らしたくなかった」(16.0%)などが挙げられている(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度 仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」2018年)。取得に踏み出せなかった主な理由は、目前の仕事の調整がなされず、周囲にも取得しづらい雰囲気があったことだ。会社として人事制度を充実させている中で、職場単位で「互いにフォローし合おう」との声掛けだけでは、必要な休みすら遠慮せざるを得ないのだ。