※本稿は、石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。
「書かないと5割忘れる。寝て起きると8割は忘れる」
「3年間、自分を捨てておれの真似をしろ」と言われても、はじめは途方に暮れるばかりでした。
「自分を捨てろ」と言われても、どうしたらいいかさっぱりわからない。結果、ひたすら毎日怒鳴られることになります。
何か言っても「違う」。
何かすると「そうではない」。
意味もわからないまま、とにかく怒られる。
会議室を確保し、席順を決め、議事録を取ることが、ぼくの最初の仕事でした。
「これから打ち合わせでは、席順、相手の肩書きや見た目、その場で話されたことをすべて、具体的・映像的に書き残しなさい。ノートとペンを手放さないこと。それを会議が終わったら読み返し、家に帰ったら寝る前に読み直して整理する。必ず寝る前にやること」
「人間は書かないと5割忘れる。寝て起きると8割は忘れる」
「人はね、打ち合わせの場では、地位とか、雰囲気とか、声の大きさとかで相手を判断しがちなんだ。でもそんなのは関係ない。偉い人が的外れなことを言うこともあるし、若い人がすごくいい意見を言っていることも多い。ノートを読み返すと、その場で何が大事だったのかが自ずと見えてくる」
参加者の肩書き、席順、風貌まで細かく書く
鈴木さんの予定はいつも朝からいっぱいで、1日にアポイントメントが10件を超えることもざらでした。当時は無印良品のA4ノートを使っていたのですが、3日で1冊使いきってしまうようなペースでした。
ノートには、
日時
場所
参加者の名前と所属・肩書き
席の並び順
発言
参加者の風貌や話し方(身振り、手振りも)
を記録します。「○○会社△△部□□部長」といった肩書きの詳細を書くことも、重要な意味があります。
鈴木さんはこう断言しました。
「人を、肩書きで判断しろ」
普通は「人を、肩書きで判断してはいけない」じゃないか? 納得のいかない顔をしていると、いつもの上目づかいで続けます。
「君がいま思っているような意味じゃない。抽象的に相手を判断するな、ということ。君は好き嫌いが激しすぎる。自分が好きな人にはよくするけど、嫌いな人には徹底的に厳しい。でも、それって君の主観だろう」
主観で何が悪い。主観といってもフェアな主観だ。明らかに仕事をしていない人や、プロジェクトにおいてマイナスな人は、年齢や肩書きに関係なく、容赦なく切り捨てるべきだ。それが、ちゃんと仕事をしている人に対する最低限の礼儀だ。ぼくはそう信じていました。