有識者会議の報告書は、「ネット」の必須業務化を明確に示したが、実は2022年秋に総務省が「公共放送ワーキンググループ」を発足させた時点で、今回の結論は予想されていた。政策の方向性を打ち出すために有識者会議を活用する手法は、役所の常套手段だからだ。自民党も事実上容認していたので、初めから大きな障害はなく、既定路線だったのである。
つまり、有識者会議のテーマは「必須業務化の是非」ではなく、「必須業務化のための環境整備」だったと言っていい。会議では、さまざまな角度から問題点が指摘され細かな条件が提起されたが、「必須業務化」の本筋にかかわるものではなかった。NHKにしてみれば、会議の議論を静かに見守ってさえいればよかったのだ。
ようやく大望が実現する運びとなり、まさに「宿願成就」である。
NHKの悲願は達成したけれど、課題山積
「ネット」の必須業務化が決まったが、NHKには新たな難題が突きつけられている。
全国あまねく「ネット」のサービスを展開する①「公共メディア」の再定義に始まり、②「ネット視聴者」に提供する番組・情報の範囲や内容、そして視聴者にとってもっとも気になる③「ネット受信料」のあり方や徴収額など、詰めなければならないテーマが山積している。いずれも、有識者会議での議論は生煮えで、これからの整理になる。
順を追って、見ていこう。まず、これまでにもたびたび話題になってきた「公共メディアとは何か」という大命題だ。
ネット空間には、フェイクニュースが飛び交い、フィルターバブルやエコーチェンバーを形づくる歪んだ情報があふれ、昨今は「インフォーメーション・ヘルス(情報的健康)」という概念も重視されるようになった。それだけに、正確で公正で健全な情報を国民に届け、権力と対峙するジャーナリズムとして、信頼できる報道機関の重要性は増す一方だ。
しかし、「公共メディア」の看板を掲げるNHKが、その使命を全うできるかどうか、懐疑的にならざるを得ない。
求められる「公共メディア」の再定義
NHKは、ときに政権寄りの体質が露呈し、国民は政権との近さが番組づくりに影響しているのではないかという不信感を抱き続けている。
古くは2001年の従軍慰安婦問題に絡む番組改編疑惑、14年には「政府が右ということを左というわけにはいかない」と言い放った会長発言、最近では2020東京五輪の反対派を陥れるような虚偽字幕問題など、「国営放送」と揶揄されるような「事件」は枚挙に暇がない。
また、番組への干渉を禁じられている経営委員会が番組に事実上介入したかんぽ不正販売問題では主導した人物がいまだに経営委員長の座に居座り続け、前会長が認められていないBS番組のネット配信予算を独断で決裁するなど、ガバナンスの機能不全は目を覆うばかりだ。
「口先だけの公共メディア」ではなく「真の公共メディア」に脱皮できなければ、国民の支持は得られないだろう。
NHKは、自ら「公共メディア」を再定義し、実践することが求められる。