段階的に悪性度が上がる発がん経路が注目されている

そしてもうひとつは、突然変異的にいきなりチンピラややくざ細胞が現われる経路(突然変異的発がん経路)です。こちらの経路では時間を要せずに悪性化するためか、患者さんの平均年齢は低くなります。発生頻度は段階的発がん経路よりかなり低いのですが、一気に悪性化して浸潤がんになるため、膵臓がんでなくても早期発見はほぼ不可能です。

そのため、これからお伝えする膵臓がんの「早期発見」の話は、前者の段階的発がん経路を対象とした内容となります。

膵臓がんの段階的発がん経路として昔からよく知られているのは、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性囊胞のうほう腫瘍(MCN)などの膵囊胞が悪性化して膵臓がんになっていくケースです。

これらに加えて、最近、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN:パニン)が注目されています。こちらも同じように膵管の上皮内にちょい悪の腫瘍細胞が発生するのですが、こちらは囊胞などの目立った形態的変化を見せることなく、静かに悪性度を上げていきます。そのため、ともすると突然変異的発がん経路と思われがちですが、実際には段階的に悪性度が上がっていきます。

2種類の発がん経路をどう区別するかは意見が割れている

PanINとIPMNをどのように区別すればよいのか、膵臓を専門とする消化器内科医や病理医の間でも意見が分かれているのが現状です。さらに言うと、どちらもちょい悪の腫瘍細胞が個別にあちこちにできる、つまり多発する傾向があることが分かっていて、IPMNとPanINが混在して多発していることもあります。

これは「金髪の不良がいるのは3年A組だけかと思ったら、C組にもいるし、2年や1年の教室には金髪ではなくリーゼントの不良もいるじゃないか!」という感じです。しかも、彼らは別々の教室でそれぞれ個別にミスコピーが起きて生まれてきたものなのです。

いまのところ、IPMNとPanINは別の病気として扱われているのですが、直感で仕事をしがちな外科医の私などは、金髪(IPMN)だろうがリーゼント(PanIN)だろうが、所詮どちらも似たようなちょい悪の不良で、いつかは同じやくざ(膵臓がん)になっていくのですから、分けて考える必要はないのではないかと思ったりもします。このあたりのことはこれから解明されていくでしょう。

ちょい悪から本物の不良、チンピラ、やくざへと成長していく段階的発がん経路ですと、本物の不良かチンピラくらいのまだわりとおとなしい時期がしばらくあります。その時期にその芽を摘んでしまえば、かなり高い確率で社会秩序の混乱と壊滅から逃れられます。

つまり、膵臓がんで命を落とすことを避けられるわけです。