新聞各社は取り上げようとしなかった
1989年当時、北公次はあきらかに放送禁止用語だった。
ジャニーズ事務所への忖度だろう。
朝日・読売・毎日・日経・産経といった大手新聞に打診しても、新刊紹介のコーナーにはまったく載らなかった。
長期にわたる事務所代表の性加害を、元フォーリーブスリーダーが訴えているのに、新聞各社は記事として取り上げようとしなかった。何人もの少年が長年にわたって性虐待を受けていても、そんなことは語るにあたらない、という態度だった。
ごく一部の夕刊紙、週刊誌をのぞき、ジャニーズ事務所タレントを起用する媒体をもつスポーツ紙、出版社、テレビ・ラジオ局は無視した。
元ジャニーズJr.たちも性被害を証言
35万部のベストセラーになりながら、メディアでほとんど無視されたことに怒った村西とおるは、今度はビデオ版『光GENJIへ』でジャニー喜多川社長の性加害を訴えようとした。
「ケツ掘られた当時の未成年を探すんです。その少年たちを登場させるんですよ。ケツ、ケツ掘られたやつを!」
ビデオでは、北公次の証言が終わると、画面が切り替わり、原宿の貸しスタジオで撮影された元ジャニーズJr.たちによる性被害体験の証言がつづいた。
ジャニー喜多川の性加害の被害者たちが、一挙に実名顔出しでカメラ前に立ったのはこのときがはじめてだった。
当時はセクハラ・パワハラ・モラハラといった言葉は存在せず、概念も曖昧だった。
LGBTQという分類もなく、性の概念もおおざっぱだった。
性がらみの人権問題の議論には、どこか腰が引けたり、避けて通る傾向が強かった。