マスクは世間で思われているほど効果はない

そして、かなり慎重に不織布マスクを使ったとしても、効果には限界がある。オーストラリアの研究チームが、マスクなど公衆衛生学的介入の効果について、過去に発表された72の研究をメタ解析という方法で総合的に分析した結果を、2021年11月、『英国医師会誌(BMJ:British Medical Journal)』で報告している。その結果によれば、マスク着用と手洗いによる感染予防効果はそれぞれ53%だった。つまり、室内でマスクを着用していても、感染するリスクは約50%しか減らせないということだ。

実は、マスクは、世間で思われているほど効果はない。この研究は、マスクの効果をまだ高く報告している方だ。一般人が利用するサージカルマスクの場合、その感染予防効果は2割程度との報告が多い。世界で最も権威があるとされている「コクラン・レビュー(Cochrane Reviews)」の報告(2023年1月30日公開)では、効果は全くなかったとしている。

こういった研究結果を待つまでもなく、マスクによる感染防御に限界があることは、臨床経験のある医師や看護師なら誰でも知っている事実だ。首都圏の保健師が指摘したように、マスクの質も問わず、マスクの有無で濃厚接触者かどうかを判断するのは、相当無理のある話だった。

マスクを着用した女性
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誰でもPCRを受けられれば混乱は避けられた

それでも厚生労働省と感染研は、濃厚接触者の限定を強行し続け、PCR検査数を抑制した。職場などで陽性者が出たけれども、濃厚接触者の定義に入らなかった人たちは、仕方なく、民間のPCRセンターで高額な費用を払って検査を受け、全員が陰性と確認されるまで疑心暗鬼に襲われた。最初のうちは、民間のPCRセンターで陽性になっても、その後、医療機関を受診しなければ新型コロナだという確定診断が得られず、その後、急変して対応が遅れそうになるケースも出た。濃厚接触者を限定せず、感染者の周囲の人や接触した可能性のある人はすべて検査するなど、誰でも幅広くPCR検査を受けられるようにすれば、このようなさまざまな混乱は起こらなかったはずだ。

また、病気になったら同情されるのが普通だが、日本では新型コロナの感染者はまるで犯罪者のような扱いを受けた。これも、周囲の人も含めて何か罪を犯したかのような取り調べを受ける積極的疫学調査の弊害だ。芸能人やスポーツ選手など、新型コロナに感染したことで謝罪する人まで現れる始末だった。