「語り部の正体」だけじゃない…最終週で開花、朝ドラ『らんまん』が半年かけて積み重ねた「緻密さの極致」(佐野 華英)

連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合)が明日9月29日にいよいよ最終回を迎える。草花への愛を一生涯貫き、日本中の植物を収めた図鑑を作り、日本植物学の礎を築いた槙野万太郎(神木隆之介)と、彼を取り巻く人たちの「人生絵巻」はどのように閉じるのだろうか。脚本をつとめた長田育恵氏は以前、最終週についてこう語っていた。

NHK公式サイトより

「最終週は、万太郎が何歳であろうと任意に始められるという、最初から決めていた『仕掛け』がありました」

どんな仕掛けなのだろうと、楽しみにしていたら、「こうきたか!」と驚いた。これまでも、長田氏による本作の構成の緻密さには何度も唸らされてきたが、最終週の「仕掛け」もまた、見事だった。

半年かけた「仕掛け」に驚嘆

最終週「スエコザサ」の月曜回(126回)は、寿恵子(浜辺美波)が購入した練馬の土地を歩きながら万太郎と寿恵子が語らうシーンから始まる。幼くして天に召されてしまった長女・園子の名に込めた「この子の人生にありとあらゆる草花が、咲き誇るように」という思いを、2人が作る「植物の園」で“取り返す”。

そこにどんな花や木を植えるのか、万太郎と寿恵子はワクワクしながら言葉にしていくのだが、その中に、これまでの週タイトルに冠され、物語の「語り部」の役割を果たしてきた植物の名前があることに胸が熱くなる。バイカオウレン、キツネノカミソリ、ノジギク、そして、園子が亡くなった第18週の週タイトルになったヒメスミレ。

オープニングを挟んで時代は飛び、そこから始まるのが、昭和33年(1958)のエピソードだ。万太郎の膨大な標本が都立大学に寄贈されることとなり、標本整理の担い手が必要になる。それゆえ槙野邸で働き、標本の判別作業のために、万太郎の行動記録を追いかけることになる藤平紀子を、このドラマの「語り」を担当する宮﨑あおいが演じている。

視聴者が半年間、毎朝聞いていた「声の主」は、将来、万太郎の足跡をたどることになる人物だったのだ。万太郎が5歳のときから始まり、その生涯を終えるまで、そして終えた後も続く『らんまん』という物語は、紀子の口から語られていた。この仕掛けが白眉だ。