日本人の7人に1人(約14%)が、IQ(知能指数)が平均的でも知的障害でもなく、はざまの「境界知能」に該当する。児童精神科医の宮口幸治さんは「彼ら・彼女らは子どもの頃から学習面や身体面に問題を抱え、生きづらさを抱えているケースが少なくない。境界知能であることに気づかれず、支援につながることが少ないため、勉強でつまずいたり、仕事が続かなかったり、引きこもったり、利用され犯罪に手を染めて刑務所に入ってしまうこともある」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)の一部を再編集したものです。

勉強中に頭を抱える女の子
写真=iStock.com/WDnet
※写真はイメージです

自治体によって異なる認定基準

「IQ70未満」が知的障害の判定の目安ですが、その数字はあくまでも目安です。例えば、知的障害の認定基準について、東京都では「軽度とは、知能指数(IQ)がおおむね50から75」と、京都市でも「発達指数又は知能指数が51から75の場合は、障害の内容は軽度とする」とされている一方で、埼玉県では「知能指数がおおむね70以下」とのことです。

このように知的障害の障害認定基準は自治体によって違います。ということは、住んでいる場所によって、知的障害とされるかどうかが変わってしまうわけです(自治体による線引きの違いが責任能力の判断に影響を与えるのならば、裁判の判決(※)が変わっていた可能性もあります)。

※2019年11月、就職活動のために上京した境界知能の女性が、空港のトイレで赤ちゃんを産み、殺害。2021年9月の裁判では、彼女の知的能力は「低いとはいえ正常範囲内で大きな問題はない」と判断され、懲役5年の実刑判決が下された。

変遷する知的障害の基準

そもそも知的障害の基準を「IQ70未満」としたのは1970年代以降のことで、それ以前は「IQ85未満」が基準だった時期がありました。

現在、日本の医療現場では、世界保健機関(WHO)が発刊するICD(国際疾病分類)の第10版(ICD-10)を使用して、疾病分類を行っています(2023年3月現在、第11版への切り替え中)。

このICDですが第9版までは、およそ10年単位で改訂が繰り返されてきました。1965~1974年は第8版(ICD-8)が使用され、この10年間は、IQ70~84が境界線精神遅滞という定義がなされていました。

「精神遅滞」は、今でいう「知的障害」のことです。つまり、現在の「境界知能」は、かつて知的障害に含まれていたことになります。これを現在の日本に当てはめますと、実に約1700万人(人口の約14%、およそ7人に1人)が知的障害という推計になります。

それが第9版(ICD-9:1975~1984年)以降になると、知的障害は現在のIQ70未満に変更となりました。変更の背景には、IQ70~84も含めてしまうとあまりに知的障害の人口が多くなってしまうので、支援者の確保や財政の面でも追い付かなくなるという事情もあったと推測されます。