なぜヒトラーの率いるナチ党は権力を握ることができたのか。甲南大学の田野大輔教授は「『民主的に選ばれたから』という説明は単純すぎる。ナチスの権力掌握と宣伝の手法をみれば、それが必ずしも『民主的』とは言えないことがわかる」という――。(第1回)

※本稿は、小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)の〈第二章 ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?〉の一部を再編集したものです。

ベルリンの首相官邸のバルコニーで敬礼するアドルフ・ヒトラー
写真=dpa/時事通信フォト
ベルリンの首相官邸のバルコニーで敬礼するアドルフ・ヒトラー

ヒトラーはいかにして独裁者になったのか

ヒトラーはなぜ権力を握ることができたのだろうか。この問題については、「ヒトラーは民主的に選ばれた」「選挙で勝ったから首相になった」などと、かなり単純な説明がなされることが多い。また、ナチスが国民の支持を獲得した理由についても、「ヒトラーの演説には絶大な威力があった」「多くの人びとが彼のカリスマ性に魅了された」という、やや紋切り型の説明が一般化している。

ヒトラーが選挙を通じて広範な支持を得て、それを背景に権力の座についたという意味では、こうした見方は基本的に正しい。だがナチスの権力掌握と宣伝の手法をもう少し詳細に見ていくと、これにはいくつかの留保が付くこともたしかである。

ヒトラーは民主的に選ばれたのか? ヒトラーの権力掌握は「民主的」なものだったのだろうか。この問題を検討する上では、とくに次の3点を考慮する必要がある。

ナチ党が国会で単独過半数はおろか、(自由な選挙ではなかった1933年3月の国会選挙を除けば)保守政党との連立によっても過半数を占めることはなく、ヒトラーの首相就任は議会の選出によるものではなかったこと、②首相指名は大統領の権限にもとづくもので、そこでは大統領周辺の保守勢力との提携が鍵を握ったこと、③ナチスの権力掌握の過程では、選挙運動や宣伝活動と並行して、突撃隊などによる暴力の行使も大きな役割を果たしたことである。

この3点を念頭に置いた上で、ヒトラーの権力掌握がいかなる意味で「民主的」と言えるのかを検証していくことにしよう。