学校に行っている間にママが死んじゃう⁉

分離不安というのは一見、子どもが親から離れられないほど弱いように見えますが、実は子どもが自分の身を案じる不安はそれほど大きくありません。むしろ子どもは親の安全を心配し不安になることが多いのです。自分が学校に行っている間に、お母さんが病気やケガで死んでしまうんじゃないか、いなくなってしまうんじゃないか、そんな心配が分離不安の正体なのです。

もちろん子どもは子どもなりに新しい世界で緊張が高まり、不安の感度が上がっています。だからこそ、お母さんに何か起きていないか、お父さんとお母さんは本当に仲がいいのだろうか、とこまかいことをいろいろと心配しています。たとえば、あのときお母さんがちょっと顔をしかめたのは、本当は重い病気なんじゃないかと。

ですから分離不安の強い子どもで立て直すべきは、子どもの心以上に家族の安定性なのです。子どもが後ろ髪ひかれずに家を離れることのできるくらいわが家は安定しているかどうか。親御さんはそこを考えるために、立ち止まってほしいのです。

ランドセルを背負った息子を抱きしめるエプロンを着用している母親
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不登校は普通の子どもにも起こる

我々、児童精神科医が診るときは、学校に行けなくなって何ヵ月か経った子どもたちですが、大雑把にいって全体の3分の1の子が発達障害、3分の1が虐待など逆境的な養育環境にある子、残りの3分の1がどちらも全くない子だと感じています。

発達障害や逆境的な環境で育つことがリスクファクターであることは間違いありませんが、以前からそのようなハンディキャップが何もなくても不登校の子はあらわれてきます。何か友人関係などでいじめのような偶発的な出来事が起きて、その子が社会に留まる意欲や動機が崩れてしまう。まさに誰でも不登校になりうるということです。

コロナ禍によって社会全体の不安量が大きく増えました。新型コロナに感染するかもしれないという不安を感じとるたびに敏感性が増したことは、大人の世界も子どもの世界も同じです。忘れてはいけないのは、実際に新型コロナに感染した子どもは多いということ。そして、その後遺症が出る可能性もあるということです。

新型コロナの後遺症は、子どもの登校の足を引っ張るほど、倦怠感が強く出る場合があります。気力も奪われますから、その体調で学校に行かせるのは非常に酷です。そのあたりはかかりつけの小児科医と、よく相談しながら考えるべきですね。

単に子どもがだるい、気持ち悪いといって登校をしぶる背景には、さまざまな社会的な要因があることを大人は忘れてはいけないと思います。