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国民投票で決めたのに、なぜ難航するか

フランスの年金改革とイギリスのEU離脱は、まさに民主国家における「イシュー」「プロセス」「結果」の在り方を問う際の二大反面教師です。国民に決定権を与えなかったマクロン大統領は「プロセス」の段階でつまずきましたが、一方イギリスの場合は、「プロセス」は一見正しくても、その前段階の「イシュー」提示に問題がありました。

選挙中に投票する人の概念的イメージ
写真=iStock.com/bizoo_n
※写真はイメージです

有権者など多くのメンバーに物事の是非を問う場合、事前に必要な情報を開示し、それが実現した際の具体案を提示することは必須条件です。EU離脱に関して言えば、「EU残留のメリット・デメリット」「離脱のメリット・デメリット」「離脱することで生じる膨大な手続き」「離脱する場合、どういう手順で実現していくのか」など離脱した場合のイギリスの具体像、別な言葉で言えば具体的かつ詳細なシナリオ(案)を国民に提示すべきでした。

しかし、当時のキャメロン首相はそれを怠りました。おそらくは「国民はEU残留を望むだろう」という希望的観測が働いたせいでしょう。具体的なシナリオをほとんど示さず、シンプルに離脱にYESかNOかを問うただけだったのです。ふたを開けてみたら投票者の51.9%が離脱に賛成という結果に。キャメロン首相本人も驚いたはずです。僅差と言えば僅差ですが、しかし民意は民意です。いくら首相でも、世界が注目する国民投票の結果を覆すことはできません。

以後もメイ首相、ジョンソン首相、トラス首相、スナク首相と歴代首相はことごとく、ブレクジットが引き起こす経済・社会問題解決に苦慮し続けています。世界有数の金融都市ロンドンは、フランクフルトやパリにその座を脅かされ、人的資源や物流、企業も、より自由度の高いEU市場へと流れていきました。

最大の問題は、票を投じた国民のうち、どれほどの人が離脱後の具体的シナリオを想定していたかということです。投票前には離脱派によるキャンペーンやプロパガンダによって“EU離脱のメリット”が人々の耳目を集めました。歴史的背景や、増える移民への反感もあったでしょう。先入観やイメージで国の未来に票を投じてしまった人々が、今になって「失敗だった」と悔やむ姿は他人事ではありません。

では、イギリスはどう行動すればよかったのか、今回も大阪都構想を例に、ご説明していきましょう。

大阪都構想は、5年ほどかけて住民投票に持ち込みました。もちろん、僕1人だけのアイデアではなく役所のメンバーや専門家など100人超の知見を結集させ、具体的かつ詳細なシナリオを作っていきました。