姿勢を維持する力とセロトニンの意外な関係

腸と脳とのつながり(脳腸相関)には、「セロトニン」が関係している。セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、ドーパミン、ノルアドレナリンを制御し、イライラや「キレやすさ」を抑え、精神を安定させる働きをする。このセロトニンの9割が腸(小腸粘膜にあるクロム親和細胞〈EC細胞〉)でつくられている。

さらにこのセロトニンは、私たちの体にある「抗重力筋こうじゅうりょくきん」とも深くかかわっていることもわかっている。

抗重力筋とは、読んで字の如く「地球の重力に抗う筋肉」のこと。顔や首、腹部や背中、足など全身に張り巡らされ、伸縮しながら体の歪みを強制して姿勢を維持するための筋肉だ。まぶたが自然に落ちてこないのも、首が垂れてこないのも、目をパッチリ見開けるのも、口角を上げて笑えるのも、そもそもまっすぐ立っていられること自体、抗重力筋の働きがあればこそということになる。

そしてセロトニンには、この抗重力筋を刺激して働きを活性化する作用があるのだ。逆にいえば、セロトニンが足りないと抗重力筋が充分に機能しないということになる。

顔の抗重力筋が緩むと暗くて眠そうな表情になる

セロトニンのメイン生産工場である腸の状態が悪化すると、セロトニンの生成にも支障が出て十分に分泌されなくなる。その結果、セロトニンの抗重力筋への作用が少なくなって機能が低下し、体の歪みを修正できなくなる。

首や背中、腰の抗重力筋(体幹の背側筋などの姿勢保持筋)が緩むと、背中が丸まって猫背になる。顔の抗重力筋(頬筋、眼瞼挙筋、咬筋)が緩むと、顔面の筋緊張が低下し、まぶたが落ちてきて眠そうな表情になったり、口角が下がって陰うつな表情になったり、口元が弛緩しかんしてだらしない印象になったりする。

また、腸の具合が悪いと無意識におなかを守るような姿勢をとるため、つい猫背になる。脳腸相関とセロトニン(幸せホルモン)不足によって腸の不調や自律神経に悪影響を及ぼし、メンタル面の安定を欠いて表情がより暗く、陰うつになる――。こうしたケースもある。

いずれにせよ腸内環境が乱れると、さまざまな要因によって姿勢にも表情にも、“締まり”がなくなり、見た目の印象が大きくネガティブに傾いてしまうのだ。

腸内細菌が産生するセロトニンは血液脳関門を通過しないため、脳内に直接作用しないが、脳内のセロトニンの量を調節することで全身状態に影響を与えることがわかっているのだ。