コロナ禍でも世界上位の観光国であり続けた

2020年はコロナ禍前の2019年に比べ、世界中で観光収入と支出、外国からの旅行者受け入れ数が大幅に減り、前出の世界旅行ツーリズム協議会は、全世界の観光関連産業の収益が半減したと報告しています。前出の寄与額の対GDP比は5.3%まで落ちました。フランスも同様に、各項目の数字が前年比の半分近くに減少し、対GDP寄与比は5.0%まで沈んでいます。そんな異例の1年でも国際ランキングでは上位を保ったことに、フランス観光業界を支える底力のほどが表れていると言えます(*6)

たとえば同じヨーロッパの観光人気国スペインは、2019年には観光収入で世界2位とフランス(同年3位)を上回り、外国からの旅行者受け入れ数でもフランスに600万人差で迫る2位でした。しかし2020年はパンデミックからより深刻な影響を受け、観光収入で世界8位、外国からの旅行者受け入れランキングで世界5位と順位を下げています(*7)。観光産業の対GDP寄与比では、2019年の14%が5.9%と6割以上の減少となってしまったのです(フランスは45%減)(*8)

2020年夏も54%の人々はバカンス旅行に出発した

コロナ禍でもフランスが、観光関連の国際ランキングで上位を保ったのはなぜか。入国制限や行動規制の違い、地理的条件など要因は複数あり、安易な因果づけはできませんが、背景の一つにはやはり、フランスの人々の堅固なバカンス精神があると考えられます。

髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)
髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)

バカンスの非日常時間は、それ以外の労働の日々を生きる心の支え。長期休暇なしに働くのは考えられない──本書のインタビュー回答者の方々が、何度も言及していましたね。そのマインドセットの前では、パンデミック下であっても、自宅外で過ごす休暇が必須。前代未聞のロックダウンが明けて数カ月しか経っていない2020年の夏、フランスでは54%の人々がバカンス旅行に出発し、そのうち94%の行き先がフランス国内でした(*9)。ですがコロナ前、2019年のあるバカンス意識調査では、行き先をフランス国内とする人の割合は回答者の半分ほどだったのです(*10)。移動制限があるなら行き先は近場でも良い、とにかくバカンスに出る、自宅以外の場所で休暇を過ごす! そんな強い意志とその背景にある長年の習慣性が、この数字に繫がっています。

また新型コロナ禍2年目の2021年は春に再び感染が拡大し、4月に3回目のロックダウンがありました。しかし直後の夏の地中海岸地域では、宿泊業の売上がパンデミック前年の2019年を上回り、夏の客室販売数の記録を更新した街もありました。これを報じたニュースのタイトルがまた象徴的で、まさしく「フランス人がサマーシーズンを救った」でした(*11)