地方球場が埋まらない

一方でプロ野球はWBC人気に沸いている。コロナ禍も明けて大声で応援できるようにもなり、各球場には客が押し寄せている。

12球団の平均客数は5月10日時点で2万8065人、昨年の2万4558人を大きく上回り、コロナ前に過去最多を記録した2019年の3万929人に迫る勢いだ。

しかし一方で、関係者を愕然とさせる事態も起こっていた。

4月19日、佐賀県さがみどりの森球場で行われた巨人対DeNAの一軍公式戦は8069人しか入らなかった。

この球場の定員は1万6532人とNPB(一般社団法人日本野球機構)公式戦をする球場としては際立って小さいが、平日のナイターとはいえその半分以下の動員だったのだ。

前日の長崎ビッグNスタジアムでの同一カードも2万5000人の定員に対し、1万4015人しか入らなかった。

それだけでなく、近年、12球団が本拠地球場以外で行う公式戦はほとんど満員にならない。筆者はここ10年、新潟、富山、岐阜、松山、長崎、宮崎、沖縄などでプロ野球公式戦を観ているが、巨人戦であっても大谷翔平が出場しても、満員札止めになることはなかった。

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野球はローカルスポーツ

かつて、地方試合は「プロ野球興行のドル箱」だった。一軍ではなく二軍戦であっても、地方球場は満員のお客で沸きに沸いた。顔は知らなくてもテレビで見たユニフォームの選手がプレーするだけでお客は入ったのだ。

しかし今や地上波放送での野球中継はほぼなくなり、BS、CSやネット配信が中心になった。

各球団のマーケティングはファンクラブなど「リピーター、ヘビーユーザー」がメインとなり、本拠地エリア以外は対象ではなくなった。

その結果として、プロ野球は「12球団の本拠地周辺だけをマーケットとするローカルスポーツ」になりつつあるのだ。「日本最大のナショナルパスタイム」を標榜するNPBとしては由々しき問題ではあろう。

事実、多くの日本人が野球のルールを知らなくなっている。WBCの中継で「送りバントとは」のようなごく初歩的な用語の解説をしていたのも「野球離れ」の深刻さを反映している。

「プロ野球を知らない日本人なんていない」は、もはや昔話である。