正社員とは待遇が異なり、最大3年間の有期契約となる派遣社員は、「やる気」の維持が難しい環境にある。しかし今や、非正規社員は労働者の3人に1人を占め、顧客接点といった面で企業内の重要な役割を担っている。やる気のない派遣社員がいれば、職場全体の士気も大きく低下する。モチベーション向上は避けて通れない課題だ。

誤解されがちな点は、有期および短期の雇用ならば、「キャリアコーチングは不要」という考え方だ。派遣であっても「この仕事からなにを学ぶか」は、当人にとって大事なテーマである。

たとえば大手ファストフード店のあるベテラン店長は、店員と「この仕事はあなたにとってどんな意味があるのか」について話し合うようにしているという。ずっと非正規で働こうと思っている人は少ない。本人の長期的なキャリアプランを踏まえたうえで、この仕事のミッションや学習できることを位置づける。そうすれば、仕事にどう向き合うべきかが明確となり、たとえ有期契約であっても高いモチベーションで取り組める。

また一口に派遣社員といっても、そのキャリアはそれぞれでまったく違う。「フリーター」の延長としてモラトリアムを謳歌する若い世代もいれば、これまで培ってきたノウハウを後進に伝えたいと考えるシニアもいる。前者であれば、将来に備えたスキルアップがキャリアプランに沿った行為になるし、後者であれば、まずは人生の先輩として尊敬の念を向けることが、当人のモチベーションを高める。

ある銀行では窓口係を務めるパート社員として、退職していたベテラン社員を再雇用し、おもに若手の指導を担当させた。その結果、待遇の違いを超えた信頼関係が生まれ、職場が活性化したという。意識的にコミュニケーションの量を増やすことも重要だ。「あなたのこの部分は素晴らしい。それは、こうした形で会社に役立っている」など、よい行動を褒め、感謝を言葉にして、ポジティブなフィードバックをたくさん提供する。「すぐにいなくなる派遣社員は正社員とのコミュニケーションを望んでいないのではないか」という考えは間違いだ。雇用形態にかかわらず、誰しもが声をかけられることを待っている。