話の内容より相手の話し方のほうが大切

もしあなたが会社員なら、翌日報告書を受け取った上司の口から、「いつ、こんなものをつくれと言った?」という叱責しっせきが飛んでくることは容易に想像できるだろう。だがそれは、部下たちの失敗なのか? そうではない。上司の過ちである。

上司は高圧的な態度によって得た「はい」という部下たちの返事を「勝手に」肯定的な返事だと思い込んだ。それは勘違いにすぎない。部下たちの「はい」という答えには、「明日までと言われても……。テキトーにやって出すしかない」という気持ちが半分以上含まれていた。にもかかわらず、部下の「はい」という返事を肯定的な返事として受け止めたのは、その答えを自分の期待したとおりに解釈してしまった上司の過ちだ。

声のトーンなど、相手がどんな話し方をしているかに関心を向けなかったために、結果的にとんでもないことになった例といえる。こういうことは、私たちの周りでじつによく起きている。

これからは、会話をするとき、相手が自分の話をきちんと聞いているかをまず確認しよう。相手がどんな言葉づかいで話しているかに焦点を当てて会話を続けると、すれ違っていた話もうまくつながっていく。言いかえれば、話の内容を理解する以上に相手の話し方に関心をもつことが大切なのだ。相手の自分に対する話し方に注意し、どんな話し方をしているかを観察しよう。

新しいプロジェクトについての話し合い
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「怒りながら電話する父親」の真相

ずいぶん前、私が新入社員の頃のことだ。その日は日曜だった。誰だって日曜の朝はゆっくりだらだらしたい。ところが部屋の外から、何ごとかと思うような大声で父が話しているのが聞こえてきた。

寝ぼけまなこを無理やりこじ開けて、耳を傾けると、父はリビングで誰かと電話で話しているようだった。内容まではよく聞こえなかったが、乱暴な言葉づかいとその大声から緊張感が伝わってきた。「朝からお父さんの機嫌が悪い、今日は平和な日曜にはならないな」と思った。

「いつ結婚するんだ?」、「なんでそんなに遅い時間にばかり出かけるんだ?」などなど、このあと、私にまでそんな火の粉が飛んで来るのではないかと心配になると同時に、イライラがこみあげてきた。だが、ただじっとしているわけにはいかない。そこで私は、父が何にそんなに怒っているのかを確認し、味方にでもなってあげようとリビングに顔を出した。ところが、あれ? 様子がおかしい。完全に予想がはずれた。

父は満面の笑みを浮かべていたのだ。しばらくして、電話を切った父に聞いてみた。

「お父さん、誰と喧嘩してたの?」
「えっ? 喧嘩?」
「うん、今、電話で誰かと喧嘩してたじゃない」
「なんのことだ? 友人と今晩の約束をしただけで、喧嘩なんかしてないぞ」