安い、おいしい、早い

2つ目は、コーヒーの品質に妥協をしなかったことだ。

ラッキンはモバイルオーダーとテイクアウトを基本にしているため、スターバックスのような客席空間を用意する必要がない。そのため、新規出店時の初期投資を抑えることができる上に、人件費も抑えることができる。

その浮いた分をすべてコーヒー豆の品質に振った。当初から世界的なバリスタを監修に迎えるなどして、おいしいコーヒーを提供することに注力をした。

【図表2】ラッキンとスターバックスのコスト構造
ラッキンコーヒーとスターバックスの原価構造。平安研究所調べ。「新消費の研究:コーヒーシリーズ報告3」(中国平安証券)より作成。

スターバックスは客単価が39元(754円)だが、ラッキンは20元(387円)と半分に抑えている。にもかかわらず、多くの人からは「スターバックスにひけを取らない」という評価を得ている。

どうせオフィスで飲むのだから、客席はいらない。なにより並ばなくていいし、おいしい。こうして、ラッキンの固定ファンが生まれていった。

2020年、ラッキンは不正会計問題を起こし、7月にナスダックから強制上場廃止処分を受けた。さらにコロナ禍となったが、ラッキンは売り上げを伸ばし赤字幅を縮小した。新規顧客の獲得ペースは落ちたものの、固定ファンが支えた格好だ。

【図表3】ラッキンコーヒーの月間の平均ユニーク客数
ラッキンコーヒーの月間の平均ユニーク客数。ウェブサービスのMAU(月間アクティブユーザー数)に相当する指標。コロナ禍(アミ部分)、上場廃止(矢印)で成長が停滞はしたものの、大きな減少は起きなかった。ラッキンコーヒー財務報告書より作成。

1杯買うともう1杯無料

3つ目がクーポン戦略だ。

特に大きな武器となったのが、「買一送一」(1杯買うと1杯無料)のクーポンだった。このクーポンを受け取った人は、実質半額になるので2杯を購入する。

しかし、自分で2杯を飲む人は多くない。オフィスに持っていき、同僚にコーヒーをプレゼントする。その同僚は味と価格に驚き、自分のスマホからミニプログラムを開いてみる。こういう連鎖反応が起き、新規顧客を獲得していった。

ミニプログラムという利便性の高い仕組みがあったため、ラッキンの顧客は全員がオンライン会員になる。WeChatは、個人情報そのものを渡すことはないが、ラッキンにマーケティングデータを提供をする。これを利用し、より精密なクーポン戦略やプロモーションを行っている。