シングルマザーや障がい者が補完し合う循環型システム

現在、8世帯が居住できるシングルマザーのシェアハウスである「めぐみハウス東大竹I」と2世帯が入居できる「めぐみハウスたからの地」の2棟、障がい者グループホームの「ワンダフルライフ」が9棟、無農薬野菜を栽培する広大な畑の「めぐみ農園」、今年6月には障がい者の就労継続支援B型作業所である「ワンダフルワークス」と常設の子ども食堂の機能を持つカフェ「めぐみキッチン」をオープンする予定だ。

これらの拠点は1つで完結するのではなく、シングルマザーや障がい者は畑やグループホームで働くこともでき、無農薬野菜は不動産店舗での販売だけでなく、グループホームやシェアハウスでも使われるという、お互いが補完し合う循環型のシステムとなっている。

さらにオープン予定の「めぐみキッチン」が“地域の居場所”として機能することで、シェアハウスやグループホーム居住者と地域のさまざまな人との交流が可能となり、月曜から土曜は夕方から子ども食堂となるため、子どもの「孤食」が解消でき、親にとっても安心・安全な居場所が出来上がる。何とも、壮大な構想だ。

なんの志もなく飛び込んだ不動産業で花開く

こうした地域に根差した、社会的弱者がつながり支え合うシステムはもちろん、最初から描かれていたデザインではない。全ては7年前、不動産会社を起業したばかりの恵子さん(あえて、多くの方から呼ばれている名で記す)が1棟の家と出会い、シングルマザーのシェアハウスを立ち上げたことから始まる。ここでまかれた一粒の種から、思いもしない構想がどんどん生み出されていった。

強みの一つは、不動産業という業態だ。全ての拠点は、「空き家」がうまく活用されている。掘り出し物の空き家を見つけるのは、地域の不動産屋なら難しいことではない。むしろ老朽化など、さまざまな問題が露呈している今、空き家利用こそ、社会にとっても望ましい。

そしてもう一つ、何よりの強みが、竹田恵子という人間力であり、その揺るぎなきパワーだ。そもそもなぜ、恵子さんはシングルマザーのシェアハウスを始めたのか。なぜ、「儲からない」社会貢献を、事業に掲げたのか。

「何の志もなく、不動産業に入ったっていうのが真実ですね」

「えっ?」と思わず、聞き返した。高校卒業後、初めての就職先は町の電気屋さん。母の知り合いというのが、その理由だ。次が、ペンキ屋の営業事務。この時に中学の同級生と20歳で結婚、21歳で第1子を出産した。その後、製薬関係の卸問屋で営業職に就いていた27歳の時に、第2子を出産した。

たまたま不動産屋の夫を持つ友人から、「手が空いている時に手伝いに来てほしい」と言われたのが、不動産業に関わるきっかけだった。とはいえ、恵子さんの職歴を振り返れば、全て営業だ。

「人と喋るのが好きなんですよ。人と関わる仕事をしていたいなって思っていて、不動産業が自分にとっての本業になっていきました」