猫も杓子も厚底を履けばいいってもんではない
2023年の東京マラソンは4年ぶりに一般参加の定員(3万8000人)がコロナ禍前の水準に戻るなど、マラソン大会は“通常”を取り戻しつつある。今春は1万人を超える大規模レースがいくつも開催される予定だ。3~4年ぶりにフルマラソンに参加するという方は少なくないだろう。
この間、各ブランドはシューズの開発を続けており、次々と新モデルが登場した。市民ランナーはどんなシューズを履くべきなのか。フルマラソンで着用するならクッション性の高い“厚底”の一択だが、人によって最適な厚底は異なる。どう選べばいいのか考察していこう。
まずは厚底シューズの基本をおさらいしたい。
2017年にナイキが一般発売した厚底シューズが世界のマラソンを変えた。反発力のあるカーボンプレートを軽量でエネルギーリターンの高いフォームで挟んだ構造になっており、従来のレースシューズと比べて、ソールが3倍ほど厚い。そして格段に速くなった。
男子でいえばマラソンの世界記録を2度、日本記録を4度もナイキの厚底シューズが塗り替えている。圧倒的な速さを誇るナイキ厚底に対応するため他社も追随。いつしかカーボンプレートを搭載した厚底モデルが“世界基準”になったのだ。
マラソンではエリート選手のほとんど全員がカーボンプレートを搭載した厚底モデルを履く時代になっている。そしてタイムが大幅上昇。厚底登場直前の2016年と2022年の男子マラソンの世界リストを比べると、50位(2時間8分01秒→2時間6分08秒)は1分53秒、100位(2時間9分28秒→2時間7分14秒)は2分14秒、150位(2時間10分46秒→2時間8分04秒)は2分42秒もタイムが短縮しているのだ。個人差があるとはいえ世界トップクラスでも約2~3分のタイム上昇が明らかになっている。
速すぎる厚底シューズの弊害
カーボンプレートを搭載した厚底シューズが爆発的な速さを発揮している一方で、最近はその弊害が問題視されている。大腿骨や仙骨の疲労骨折など股関節周りのケガが増えているのだ。これは薄底シューズ時代(※膝から下の故障が中心だった)にはほとんどなかったものだ。
一体、何が起きているのか。着地時にカーボンプレートをしならせることで、プレートが元のかたちに戻るときに、反発力が生まれる。それがスピードにつながっているわけだが、レース終盤は疲労からカーボンプレートをしならせるのが難しくなる。そうなると体重を前にかけて、無理にカーボンプレートを曲げようとするため、股関節周りの負荷が高まり、前述したようなケガにつながってしまうのだ。
なおカーボンプレートをしならせることができないと、前に踏み込むことができず、十分な推進力は得られない。筋力のないランナーや、ゆっくり走るときは、カーボンプレートをしならせるのが難しくなる。フルマラソンで3時間半を切るような上級者はカーボンプレート搭載の厚底シューズでいいが、フルマラソンで4~6時間台を目指すランナーは別タイプのシューズがお勧めだ。