「投資法」ではなく「投資論」

前置きが長くなった。株式投資を論じた本書も、世の習い、人間の性に対する洞察に溢れたコクのある一冊である。株式投資に関心のある個人投資家を直接のターゲットとして書かれている。どうやったら儲かるかという投資術に関心がある向きは、騙されたと思って読んでいただきたい。騙されること請け合いである。そういう人にとっては、肩透かしというか、わりとイラッとくる話満載である。そこがたまらなくイイ。サブタイトルに「21世紀の株式投資論」とあるように、この本は投資「法」ではなく投資「論」を語っている。はじめから最後まで骨太なロジックで一貫していており、看板に偽りはない。

ストラテジストにさよならを
[著]広木 隆(幻冬舎)

多くの専門家が長期投資を奨めるが、そこにはまともな論理はない、と著者の広木隆氏は指摘する。「短期投資はうまくいかない」といっているだけなのが実際のところで、長期投資が本当にいいのか、だとしたらそれはなぜかを説明している人はほとんどいない、というのである。マーケット・タイミングは理屈からして当てられない。だから、短期投資はうまくいかない。ここまでは容易に納得できる。しかし、だからといって「長期投資がいい」といってしまえば、それは論理の飛躍である。2つラーメン屋がある。一方のラーメンはまずい。これははっきりしている。だから、とりあえずもう一方のラーメン屋で食べておけ、という話である。いうまでもなく、そっちのラーメン屋が旨いという保証はない。言われてみると当たり前である。

なにぶんカネ儲けである。人々は真剣になる。何とかして儲ける方法を知りたい。だから、いつの時代もいろいろな人がいろいろな投資法や投資技術をひねり出してくる。しかし、本格的なファイナンス理論はおいとくとして(こっちは徹底的に数学言語で記述されているので、フツーの個人投資家はそもそも読むことができない)、やたらとユルい話が横行している世界のようだ。

その点、本書は一線を画している。出発点となる問題意識は「なぜ個人投資家の多くが儲からないのか」「成功体験が少ないのはどうしてなのか」である。「市場の見通しも株価の予想も半分以上は外れる」というのが、著者の見解である。著者はマネックス証券のストラテジストである。にもかかわらず「ストラテジスト」「アナリスト」「エコノミスト」といった専門家の予想やコメントはまったく当てにならないと言い切る。さらにいえば、著者も含めてこうした専門家は、市場の予測能力という点ではみんな似たり寄ったりだという。本当に抜きん出ることができる人がいたとしたら、他人にアドバイスなどせず、自分で相場を張って儲けているはずだ。まことにその通り。「それを言っちゃあおしまいよ…」という話である。

要するに、「ストラテジスト」という仕事は、ちょっと考えてみただけでも、論理的に矛盾を抱えまくりやがっている仕事なのである。「短期がうまくいかないから長期投資がいいというのは根拠がないユルい話だ」とか「何が儲かるかわかっていたら自分で相場を張ったほうがいい」と言ってしまえば、身も蓋もないことになってしまう。