治療実績は病院の実力を知る一つの指標。納得の治療を受けるには、病院と「治療法」選びが重要。手術数から実力病院を検証する。
不具合を生じやすい僧帽弁と大動脈弁
バイパス手術を受ける場合にも、病院を選ぶ目安の一つになるのが症例数である。心臓外科手術に関しては、バイパス手術、弁膜症手術、胸部大動脈疾患といった成人の心臓と大動脈の病気を対象にした3つの手術について集計した。その合計数の多い順にランキングしたのが表だ。
榊原記念病院、国立循環器病研究センター、心臓病センター榊原病院、小倉記念病院、自治医科大学附属さいたま医療センター。上位には、心臓病治療に力を入れる専門病院や大病院が並ぶ。複数の手術を同時に行うケースも増えており、そういう場合には、各症例数が多い病院で受けたほうがよいだろう。
弁膜症は、血液が効率よく一定方向に流れるように調節する機能をもつ心臓の弁に不具合が起こる病気だ。心臓には、僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁という4つの弁がある。加齢や動脈硬化の進行によって不具合を生じやすいのは、僧帽弁と大動脈弁だ。特に多いのは、僧帽弁がしっかり閉じないために血液の逆流や漏れが生じる「僧帽弁閉鎖不全症」と、弁がうまく開かず血液の流れが悪くなる「大動脈弁狭窄症」。表中の弁膜症手術の症例数には、2つ以上の弁を同時に手術した連合弁膜症手術の数も含んでいる。
僧帽弁閉鎖不全症には、患者自身の弁を温存して修復する「弁形成術」と、弁を取り替える「弁置換術」がある。その内訳までは公表されていないが、弁形成術ができる病院は限られる。自分の弁を温存する最大のメリットは、弁置換術を受ければ一生服用しなければならない抗凝固薬を飲まなくても済む点だ。弁形成ができないケースもあるものの、できる限り弁形成を受けるためには、両方可能な病院で治療を受けたほうがよいのはいうまでもない。
弁置換を受ける場合でも、弁の種類には、豚の弁を使った生体弁と機械弁がある。機械弁は寿命が長いが抗凝固薬を服用しなければならないのに対し、生体弁なら薬を飲まなくて済む。ただし、生体弁は機械弁より寿命が短く、若い人なら、いずれ再手術を受けて弁を取り替えなければならない可能性が高いという。
「どの治療にもメリットとデメリットがあります。そのメリット、デメリットとその病院の治療成績までしっかり説明してくれる病院なら信頼できるのではないでしょうか」と住吉副院長は話す。
また、大動脈疾患は、心臓から全身へ血液を送る太い血管に起こる病気。特に心臓に近い部分に生じる胸部大動脈疾患には、主に、大動脈の一部分が拡張して瘤ができる「胸部大動脈瘤」と突然大動脈が裂けて解離する「解離性大動脈瘤(急性大動脈解離)」がある。高齢化によって、胸部大動脈疾患は増えており、俳優の藤田まことさんも、今年2月に、胸部大動脈瘤破裂で亡くなっている。
表の大動脈疾患手術の数値は、各病院が、腹部大動脈瘤を含めた非破裂・破裂大動脈瘤、解離性大動脈瘤に対して行った手術の半年間の症例数である。バイパス手術、弁膜症手術に比べると、大動脈疾患手術の症例数が多い病院は限られる。