ものは言いようほめるもけなすも愛情の証し

【西村】ほめるところを探すのではなく特徴的なところを探すというのは、すごい視点ですね。たとえマイナスの部分であっても全部プラスに変換できるわけですから、究極のほめ技(わざ)だと思います。

【渡部】たとえば遅刻をした部下がいたら、「規則に縛られる社員が多い中にあって、君のように自分の意思で時間をコントロールするのも一つの能力として素晴らしい」とほめる。ものは言いようで、「ケチ」な人に「倹約家」と言うのと一緒。

食べ物のレポートの際、味が薄いときは「いくらでも食べられますね」、味が濃いときは「ご飯に合いそうですね」、美味しくないときは「好きな人は好きでしょうね」と答える。「クセになる」「個性的だ」「はまる人ははまる」といったフレーズもあります。

【西村】なるほど(笑)。今度からテレビの食べ物番組を見るときの目が変わりそうです。ただ要は、人や物の魅力というものは、その欠点やコンプレックス、トラウマのすぐ横に隠れていると言えるのかもしれませんね。

渡部 僕は女性とのやり取りの中で必ず使うのですが、ある女性が「私って飽きっぽいの」と言ったら、「いやいや、いろんなところに好奇心のアンテナを張ることができるなによりの証拠だよ」と答える。「引っ込み思案で、意見を言えないの」と言ったら、「そういう子がいるから個性のある人が目立つわけで、あなたのような人がいないと人間関係や集団がゴチャゴチャになってしまうよ」と答える。「空気を読めないと言われちゃうの」と言ったら「空気を読まない人は必ず必要。みんなが読み合っていてもなにも生まれないから」と答える。

【西村】すごい! いまの話を聞いて、先ほど渡部さんがおっしゃった真意がわかりました。人はただほめられたいだけじゃなく、誰かの役に立っていることをすごく知りたいということですね。「笑顔が素敵ですね」で終わるのではなく、「その笑顔ですごく場が明るくなる。なにか元気をもらえたような気がします」といった形で、周囲にも好影響を与えていることを伝えると、すごく心に響くほめ言葉になります。

だから、ホメ渡部が企業に行って、商品をただひたすらにほめる言葉が、視聴者の心にも響く。さすが、ホメ渡部は違います。

【渡部】ありがとうございます、ほめていただいて(笑)。結局、ほめるもけなすも、究極を言えばその人に興味があるからやっているわけで、どうでもいい人に対しては無視しますよね。バラエティ番組などは、欠点やミスを指摘して笑いにするわけですが、そこには愛情がある。たとえば、思いっきり転んだ人に対し、なにも指摘しないのはすごく冷たい反応をしたことになる。

「いま、転んだよね」と突っ込んであげるのが、けなしているように見えて、じつは愛情なんです。

【西村】相手を「見ていてあげる」ということですよね。そして、それを伝えてあげる。

【渡部】しかも傷口にしっかり塩を塗って、膿をとことん出してあげると、一番早く治る。

【西村】すごい! そこまでは気づきませんでした。なるほど!

【渡部】だから最初の遅刻の件でも、まずは「なんで遅刻なんかしてるの」と一度は突っ込んであげなきゃいけない。それが遅刻した本人にとっても一番楽なはずで、周囲が黙っていたら本人も辛い。そうして早く膿を出し切ってから、ほめることに転じるわけです。