費用で終わる読書

たとえば、毎年開催されている「読者が選ぶビジネス書グランプリ」というコンテストがあります。このコンテストには名著が数多くノミネートされます。2020年にグランプリに輝いた『シン・ニホン』(安宅和人、NewsPicksパブリッシング)は、多くの人が手に取ったことでしょう。私も周囲の知人たちから「『シン・ニホン』を読んでみたけれど、本当にすごい本だった。絶対に読んだほうがいい」とすすめられました。

しかし、「『シン・ニホン』の何がすごかったの?」と聞いてみると「いや……、何と言うか、『シン・ニホン』はとにかくロジックとファクトがすごかったんだよ」「今後の日本の行く末が書かれていたよ。まあ、読んでみればわかるよ」などと、煙に巻かれることも少なくありませんでした。本の内容を理解して血肉化できていない人たちからは、得てしてこういう反応が返ってきます。このような「読んだのにきちんと説明できない状態」を、私は「費用で終わる読書」と呼んでいます。

この「費用で終わる読書」がどれくらい深刻なのかは、次の式で計算できます。

本の値段+読了時間×1時間あたりの機会費用)×読んだ冊数

機会費用とは、「本を読む時間を別の時間にあてたときに、得られたであろうお金」をさします。

本山裕輔『投資としての読書』(フォレスト出版)
本山裕輔『投資としての読書』(フォレスト出版)

たとえば、本を1冊読むのに2時間かかったとしましょう。その2時間を時給2500円の副業にあてていれば、5000円を得られたはずです。本の価格に目がいきがちですが、機会費用にも注意しておかねばなりません。仮に毎月5冊読んでいたとしたら、毎月2万5000円がかかり、年間でも30万円もの費用が発生しています。読書には思っている以上にお金がかかっているのです。

これだけコストを割いたのにもかかわらず、読んだ本について「すごい本だったよ」とひと言で終わってしまうのは、あまりにももったいない。こういった読書は「費用で終わる読書」です。