創業者のネイサン・アンダーソンは何者か
同社を創業したネイサン・アンダーソンはコネチカット州出身のユダヤ人である。子ども時代に、正統派ユダヤ教(モーセの律法を厳しく遵守するユダヤ教の宗派)の学校に通っていたとき、旧約聖書の『創世記』は進化論と互換性があると、ラビ(ユダヤ教の指導者)の長を説得しようとしたというエピソードがある(ラビは納得せず、アンダーソンはまもなく学校を辞めた)。
子ども時代から理屈の通らないことがあれば、多くの人々に反感を持たれようとも意に介さず、疑惑を解明しようとしたり、異議を唱えたりする性格だった。
2006年にコネチカット大学(国際経営学専攻)を卒業しているので、今は40歳くらいである。大学時代はイスラエルのヘブライ大学に留学し、救急隊員として働いた経験がある。
大学卒業後、コネチカット州の金融データおよびソフトウェア会社、ヴァージニア州のヘルスケア業界中心の投資会社、ニューヨークの金融サービス会社で合計8年余り働き、2015年4月に独立した。会社に所属していたときは、上司が投資向きのいい会社を探せと言っても、ポンジ・スキーム(ネズミ講詐欺)などの企業の不正を発見すると、それを解明するために何カ月も費やしたりし、やがて自分はロング(買い)の投資ではなく、ショート(売り)の投資に向いていると自覚した。
業界の「底辺」から実力でのし上がってきた
ヒンデンブルグのカラ売り案件が医療・ヘルスケア業界に多いのは、アンダーソンの経歴と、同業界の専門性が高く、それゆえ不正の温床となりやすいことからきていると思われる。
アンダーソンは、ハーバードやスタンフォードでMBA(経営学修士)をとってゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーに就職するエリートとは明らかに異なる、金融業界の底辺に近いところから実力で世に出てきた人物である。独立したときは、マンハッタンの小さなアパートで婚約者、生まれたばかりの赤ん坊と3人で暮らしており、金に困って家賃の支払いに何度も遅れ、追い出されそうになったという。
風貌は、痩せ型で背が高く、茶色く短い頭髪、眼光鋭く、頬と口の周りに黒い髭をたくわえ、いかにも反骨精神が旺盛そうな風貌をしている。一見大学院生のような雰囲気を持ち、話し方は穏やかで、他の一部のカラ売り屋のように大口は叩かない。2001年にエンロンの財務諸表を読み込み、不正会計を見破って同社を売り倒したジェームズ・チェイノスに似たタイプである。優れたトラックレコード(過去の実績)を持つカラ売り屋は、こういうタイプが多い。