「もっと労働者を大切にすべきではないか」という議論

日本企業はアメリカ企業と比べて、株主に対する「還元意識」が低く、配当金も安い傾向にある……といわれてきました。

それが、アメリカ株に人気が集まっている要因のひとつとされています。

ドルマークが刻まれたコインに絡む両矢印
写真=iStock.com/ismagilov
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現実はまさにその通りだと思いますが、日本企業の姿勢も大きく変わってきていると感じています。

アメリカは資本主義経済のトップリーダーですから、株主を大切にする意識が根付いており、あまりにも株主に還元する姿勢が強いため、「もっと労働者を大切にすべきではないか」という議論が芽吹いているような段階にあります。

それに対して、日本企業には「労働こそがすべて」という意識が根強く残っていたため、「株で金を儲けるのは、いかがなものか?」と考えるタイプの経営者も多く、これまでは、株主還元にあまり重きを置いていない傾向があったようです。

その背景には、高度経済成長の時代に大きく利益を積み上げた成功体験がありますから、「別に株主を意識しなくても、利益は上げていける」という考えがあったといわれています。

日本企業の「還元意識」は、年を追って高まっている

企業の意識が大きく変わり始めたのは、バブル崩壊を経て、いわゆる低成長時代に突入して以降なので、2000年代に入ってからのことです。

「株主に対する意識をきちんと持たないと、このままではマズい」という風潮が芽生えて、ようやく株主に対する向き合い方が変わり始めました。

2001年の商法改正で「自社株買い」が解禁されたことも、その背中を押したといわれています。

自社株買いとは、企業が自社で発行する株を自ら買うことです。

企業が自社の株を買って保有することは、それを買うための費用が発生しますから、企業の財産的基盤を損なう可能性があり、株式取引の公正さを阻害するので公益に反する……という理由で規制されていたのですが、それが解禁されたことで、企業の株に対する考え方が変わりました。

企業が自社株を買うと、市場に流通する株数が減ることになりますから、会社の利益が変わらなければ、1株当たりの利益が増えることになります。

1株当たりの利益が上がれば、その株を買う投資家が増えて、株価水準が高くなることが期待できる……という状態になったのです。

日本企業の還元意識は、年を追って高まっていますが、平均的な配当性向(利益に占める配当金の割合)は30~40%のレベルですから、今後はさらに株主還元が進むことが予想されます。

各企業の内部留保はしっかりと残されているので、それを自社株買いに充てたり、特別配当金で分配することもできます。これからの伸びシロは、十分にあるということです。