運転能力の衰えが事故を招いている現状

75歳以上の高齢者と75歳未満の人の死亡事故を類型別に比較すると、75歳以上の高齢運転者による死亡事故は、車両単独による事故の割合が高くなっています。具体的には工作物衝突や路外逸脱の割合が高いのです(図表5)。

また操作不適による事故が28%と最も多く、このうちハンドル操作不適が13.7%。ブレーキとアクセルによる踏み違い事故は、75歳以上の高齢運転者は7.0%です。75歳未満と比べて大きな差が生まれています(図表6)。

このような事実を踏まえると、運転する能力が低下してしまった高齢者に、運転免許を漫然と交付している現在の「免許更新制度」に問題があると思います。

では、「高齢者の免許更新」のどこに課題があるのでしょうか。

75歳以上は「高齢者講習」と「認知機能検査」を受ける

まずは高齢者の免許更新までの流れを見てみましょう。

【図表7】高齢者の免許更新までの流れ(2022年5月13日以降)
出所=警察庁ホームページ「高齢者の運転免許証の更新に必要な手続

2022年5月13日から始まった現行制度では、70~74歳の人は「高齢者講習」(座学、運転適性検査、実車指導の計2時間)を受講します(図表7)。これについて合格、不合格の判定はありません。受講すれば免許更新をすることができます。

75歳以上になると、「高齢者講習」の他に「認知機能検査」が追加されます。この検査で「認知症のおそれなし」と判定されたら「高齢者講習」を受け、晴れて免許更新となります。万一、「認知症のおそれあり」と判定された場合は、医師による診断が必要となり、結果によっては免許取り消しになることもあります。

認知機能検査は、「手がかり再生」と「時間の見当識」の2つの検査項目があり、記憶力や判断力を測定。タブレットに受検者がタッチペンで入力して行います。所要時間は30分程度です。

手がかり再生(最大32点)
記憶力を検査する。4分間で16枚のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなしに回答し、次はヒントありで回答します。

時間の見当識(最大15点)
時間の感覚を検査するもので、検査の年月日、曜日、時間を回答します。

総合点は「手がかり再生の点数」×2.499+「時間の見当識の点数」1.336の合計です。総合点が36点未満の人は「認知症のおそれあり」と判定されます。

「認知症のおそれあり」の約3割が免許を更新

警察白書(令和4年版)によると、2021年に認知機能検査を受けたのは約226万人です。うち「認知症のおそれあり」と判定された高齢者は5.2万人に上りました。さらにそのうち約1.4万人が高齢者講習を受講し、免許の更新を行っています。「認知症のおそれあり」と判定された3割にあたります。