歴代は「影の総理」に「官邸のラスプーチン」…

首相に仕える事務秘書官は官邸主導で行われる重要政策の調整などにあたるため、その後は各省庁の局長クラスに就くような出世頭がなることが多い。そして、政務秘書官も首相の信頼のおけるブレーンとして政治的手腕を振るうことが求められるのだ。一般の大臣秘書官と比べるとレベルが違うと言えるだろう。

例えば、私が首相官邸を取材していた頃、安倍晋三首相の政務秘書官である経産省出身の今井尚哉氏は「影の総理」とも言われ、外交から内政まで強い影響力を持っていた。安倍政権が2017年に衆議院を前倒しして解散した際にも、消費税増税の使途変更を大義とすることを主導したと言われており、この不意打ち解散の中で野党は分裂、現在まで政治的影響が残り続けている。安倍政権の功罪をここで論じるのは控えるが、今井氏は政権が憲政史上最長となるよう支え続けた功労者の1人であると言えるだろう。

また、同じく長期政権を築いた小泉政権でも、小泉純一郎氏を事務所秘書などとして長年にわたって支え続けた飯島勲氏が政務秘書官となり、辣腕らつわんを振るって「官邸のラスプーチン」などと言われたことは有名だ。

支持率が低迷し続ける理由が詰まっている

翻って今の岸田政権はどうだろうか。

政務秘書官は2人おり、元経産次官として経験豊富な嶋田隆氏も側近として岸田首相をサポートしている。ところが、政策への関心が高く、政局的な動きは弱いというのが官邸周辺の評判だ。

実際、昨年末に政府が防衛増税の方針を決めた際には、自民党内から異論が噴出。閣内からも高市早苗経済安全保障大臣が「総理の真意が理解できません」と不満をツイッターに投稿するなど、大荒れの状態となった。政府与党内の事前の根回しや調整があまりにも欠如していたことがうかがえる。

曇天の国会議事堂
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本来ならば、そうした中でこそ奔走しなければならないのが政務秘書官というポジションなのだが、その1人が何かとお騒がせの岸田首相の長男、翔太郎氏なのである。

外遊中に土産物を買うために走り回っている場合ではないのだ。少なくとも、私が安倍政権を首相官邸で取材していた時には、政務秘書官がランドマーク撮影や土産購入などの雑務をするなど考えられなかった。

岸田政権は首相のブレーンである政務秘書官という役職を軽く見ているとしか思えない。まだ30代で政治経験も少ないの長男をその職に任命し、さらに雑務をさせている。ここに、岸田政権の「異次元の甘さ」があるのだ。

そして、その甘さ故に政府与党内での調整や連携もうまくいかず、防衛増税について内外から異論が噴出する中で支持率を下げていく。まさに一事が万事、岸田政権の体質が今回の翔太郎氏の土産問題に表れているのである。