AP通信は、ジョージア大学国際学部のハン・ロンビン准教授のコメントを基に、「とてつもない数の中国ユーザーらが不満をあらわにし、インターネット上で不満を爆発させている」ため、「一時的に政府の検閲の処理能力を超える状態になっている」と報じている。

主な拡散の舞台は、中国の主要ソーシャルメディアであるWeChatだ。アップロードされた動画を見たユーザーたちは、テレビや新聞で報道されていない事実に衝撃を受ける。この類いの動画はすぐに消されることを彼らは熟知しているため、素早く保存して別のチャットスレッドにアップロードしているのだという。

怒りに燃える多くのユーザーがこれを繰り返すことで、自動化された検閲ソフトといえど手が回らないほどの速度でデモの真実が拡散している。また、機械による自動判定の目をかいくぐるべく、動画を左右反転させるなどの技法が用いられるようになった。

多数の人々がデモを撮影したことも、中国政府にとっては痛手だ。ある動画を検閲対象に指定しソフトに覚え込ませても、ソフトが認識できない別角度からの動画が山のようにアップロードされる。

白紙を掲げ「言いたいが口にできないことのすべて」を示す

カリフォルニア大学バークレー校でネット上の言論の自由を研究するシャオ・チアン氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、別々の位置や角度から撮影された動画が少しずつ多数拡散している場合、単一の著名な動画のみが広く拡散している場合よりも、アルゴリズム上はるかに検閲が難しいと指摘している。

中国の民衆はまた、デモ実施の時点から活用できる検閲回避法を編み出した。白紙の抗議だ。A4サイズの白紙を掲げて集い、無言で抗議の意志を示す抗議運動となっている。

真っ白なプラカードを掲げるデモ隊
写真=iStock.com/shaunl
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米タイム誌はこの白紙が、「彼らが言いたいが口にできないことのすべて」を表していると解説している。こうした白紙は具体的な抗議内容を何も明示していないことから、当局に拘束されにくい利点がある。

また、抗議の光景は一見してそれとわかるが、自動検閲ソフトにとってはありふれた白紙との区別が難しく、抗議の様子を収めた動画は削除対象となりづらい。

習近平政権の威信を守るため、撤廃はできない…

権威主義が生んだゼロコロナ政策は、目的と手段の入れ替わりという典型的な不合理を生んだ。

ゼロコロナ政策の維持自体が目的へとすげ替えられ、ウイルスが弱毒化した今となっても柔軟な制度変更を難しくしてきた。方針を転換すればあたかも、習近平政権の威信が損なわれるかのような誤謬がそこには存在する。