働きがいを見失う一方で、働きやすさについては高評価だ。役職や年収にかかわらず、半数以上の人が「現在の会社は働きやすい」と答えている(図7、8)。一般的に、働きがいは仕事を通じての自己実現など、働きやすさは職場の環境面でのケアなど、と考えられるだろう。

「高度経済成長期、サラリーマンは働きがいを実感して、深夜残業や休日出勤も厭わずに働いてきました。しかし、数十年がたち、経済が成長期を脱すると、働く人の価値観が変わり、働くにあたって不安や心配のもとになるハイジーンファクター(衛生要因)の除去を重視する傾向が強まりました。それを受けて、企業もワークライフバランスを充実させるなど、工夫を重ねてきた。一方で社員にチャレンジしがいのある仕事や公正な評価を与えて、働きがいを提供する工夫はあまり進んでいない。それが“働きがい”と“働きやすさ”のギャップとして表れたのでしょう」(守島氏)

ただし、企業が推し進めてきた働きやすさは、曲がり角にきているのかもしれない。ワークライフバランスの重要性は着実に浸透してきたはずだが、2年前との比較では3~4人に1人が「働きやすさが減少した」と回答(図9)。慶應義塾大学講師で臨床心理士の植木理恵氏は、「自由度の高さが、逆に働きやすさを阻害するケースがある」と指摘する。

「企業は個人の多種多様な働き方に柔軟に対応すれば働きやすさが増すと考えがちですが、何でも選べる状況になると、人は『自分は何をしたいのか』という問いを突き付けられることになり、かえってどう動いていいのかわからなくなる場合があります。占い師の商売が成り立つのも、『あなたは○○だ』と断言して、相談者に何かしらのキャラや役割を与えているから。アイデンティティが確立されていない人にとって、選択の幅が広い環境は、必ずしも快適ではないのです」

※すべて雑誌掲載当時

(ライヴ・アート=図版作成)