なぜ日本で和食という独自の食文化が生まれたのか。神戸大学海洋底探査センター客員教授の巽好幸さんは「水が軟水だからだ。カルシウムやマグネシウムがほとんど含まれていないため、出汁の基本である昆布の旨味成分を効果的に抽出できる」という――。

※本稿は、巽好幸『「美食地質学」入門』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

森の中の滝
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和食の根幹である出汁は日本だから生まれた

和食が、日本人の伝統的な食文化としてユネスコの「無形文化遺産」に登録されたのは2013年。和食の食文化が自然を尊重する日本人の心を表現したものであること、そしてこの食文化が伝統的な社会慣習として世代を超えて受け継がれてきたことが評価されたのだ。

またこの取り組みでは、和食の特徴として、多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、栄養バランスに優れた健康的な食生活などが挙げられている。

そして、これら和食の特徴を支えているのが「出汁」であろう。出汁そのものは決して濃厚ではないのだが、ほかの食材の美味しさを究極にまで引き出す。また出汁を使うことでカロリーの高い油脂、バターなどを使わなくても美味しく調理できる。

実はこのような出汁文化と日本列島が変動帯であることは、密接に関係している。

和食の根幹ともいえる出汁が生まれた背景に、日本列島の水が大きく関わっていることはよく知られている。「和食 水」でググると多くの解説があり、その説明はおおよそ以下のようなものだ。

「日本のほとんどの地域の水は軟水と呼ばれる種類です。軟水は癖がなくまろやかな味わいなので、素材の味を生かした料理に適しています。」

しかし、なぜ軟水が和食に適していて、さらには、なぜ日本列島の水が軟水なのかはほとんど述べられていない。美食地質学の受講者には、このあたりをぜひご理解いただきたい。