養子縁組プランは採用できない
その他にも安倍氏のプランには欠陥が目につく。
たとえば「旧皇族の男系男子を養子にする」と言っても、内廷と秋篠宮家はもちろん除外して、「現在の宮家」の実情に照らすと、常陸宮家・三笠宮家・高円宮家のうち、一体どの宮家が民間からの養子を迎え入れられるだろうか。一方、旧宮家のうち養子縁組の候補になり得る男子がいるのは久邇家・賀陽家・東久邇家・竹田家の4家のみ。それらの中で、国民としての自由や権利、やりたい仕事、人間関係などを犠牲にして、自ら養子に入ろうと決意する人物がいるのか、どうか。
安倍氏は産経新聞の阿比留瑠比記者に「普通は職業選択の自由のない宮家になりたいという人は、そういない」と語っていたようだ(産経新聞11月11日付「阿比留瑠比の極言御免」)。
私が首相経験者の方から伺ったところでは、サシ(一対一)の場で安倍氏に皇室に入る意思を持つ人が実際にいるのか尋ねたところ、その時の回答は「いない」だったという(このあたりの機微な情報は岩田氏の文章にはさすがに出てこない)。
しかも、「旧宮家の男系男子」は皆、国民だから、それらの人たちだけを対象として“特権的”に養子縁組を可能にする制度は、先にも触れた憲法が禁止する「門地による差別」に当たる。養子縁組プランは憲法との関係からも実際には採用できない。
女性天皇と女系天皇はセット
安倍氏が「女性皇族の皇位継承資格=女性天皇」を認めていたことは、岩田氏が紹介した通りだったろう。しかし、女性天皇を認めて「女系皇族の皇位継承資格=女系天皇」を否定するのは筋が通らない。
この点は、現在の皇室典範が制定される際に法制局(内閣法制局の前身)が以下のように指摘していた。
「(男系限定を前提とした場合に)女帝(女性天皇)を他の男子の皇位継承資格者があるにもかかわらず認めることは、皇位世襲といふことに添はぬことであり、他に男子の皇位継承者がなくて女帝を認めることは、天皇制を一世だけ延命させるだけのことにすぎない」(「皇室典範案に関する想定問答」昭和21年[1946年])
つまり、女系継承を認めないのであれば、女性天皇は“意味がない”ということだ。女性天皇と女系天皇については制度上、認める場合も排除する場合も、“セット”で判断しなければならない。そもそも「愛子天皇」が実現した場合に、その配偶者が国民のままだったり、そのお子様に皇位の継承資格が認められないような制度を想像できるだろうか。