セカンドオピニオンの正しい受け方

がん患者さんの病状について一番よく知っているのは、その患者さんの主治医です。患者さんには自分が受ける治療を選択する権利があります。主治医から抗がん剤の効果や副作用について十分に説明を受け、理解した上で抗がん剤治療を拒否するのは患者さんの自由です。ただ、誤った先入観や古い情報によって抗がん剤治療を拒否するのはきわめてもったいないことですし、命にかかわることですから慎重に検討していただきたいと思います。

もしも主治医が信頼できない場合は、セカンドオピニオンを受けるという方法があります。そのときは必ず主治医に紹介状(診療情報提供書)を書いてもらってください。画像・病理組織・採血のデータも添付してくれるはずです。紹介状なしにセカンドオピニオンを求められても、医師は何も有意義なことは言えません。患者さんからのまた聞き情報だけでは、主治医の治療方針の是非は評価できないのです。「主治医とよく相談してね」と言われるか、一から検査をやり直すことになります。

セカンドオピニオンは、大学病院か地域の中核病院で受けるのが無難です。インターネット上では「無料がん相談」「がん治療のセカンドオピニオン」をうたうサイトがあり、エビデンスの乏しい高額な自費診療に誘導しています。「○○センター」などと自称していることもあり、一見すると公的機関に見えるかもしれません。インターネットで信頼できる医療情報を見分けるには、かなりのスキルを必要とします。基本的には、国立がん研究センターや公的病院のサイト以外は信用しないほうがいいです。医師が発信しているだけでは全面的には信用できません(この記事もそうですよ!)。

患者に症状を説明する男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

免疫チェックポイント阻害薬による治療

最後に、抗がん剤ではありませんが、がんの薬物療法の進歩を示す研究を一つご紹介しましょう。2022年6月に『NEJM誌』に発表された「ドスタルリマブ」という免疫チェックポイント阻害薬に関する研究です(※)。日本でもニュースになりましたので、目にした人も多いと思います。

欧米における局所進行直腸がんの標準治療は、術前化学療法(抗がん剤)と放射線治療に続く外科的切除です。「抗がん剤、放射線治療、外科手術の三大治療をしているのは日本だけ」「WHOは抗がん剤を禁止した」なんて話はデマなのです。ただ、直腸がんの5~10%を占める「ミスマッチ修復機構欠損」によるタイプのがんは、術前化学療法にあまり反応しない一方、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いことが知られていました。そこで、このタイプのステージII~IIIの直腸がんの患者さんに対して「ドスタルリマブ」という免疫チェックポイント阻害薬の点滴を3週間おきに半年間行う第2相試験が行われました。第2相試験とは、薬の有効性や安全性をチェックするため、比較的少数の患者さんを対象に行われる臨床試験のことです。

その結果、劇的な効果が観察されました。この研究では、半年間のドスタルリマブの投与後に、標準的な術前化学療法と放射線治療を追加して行う予定でした。ですが、報告がなされた時点で半年間のドスタルリマブ投与を完了した12人のうち、追加治療を受けた患者さんはいません。12人全員がMRIや内視鏡検査、直腸触診で腫瘍が消失していたからです。「臨床的完全奏功」といいます。ドスタルリマブ投与が完了していない治療途中の患者さん4人も含めた16人のうち、重度の有害事象はありませんでした。

※“PD-1 Blockade in Mismatch Repair-Deficient, Locally Advanced Rectal Cancer