実質賃金が上がっていないのは日本くらい
【森永】違います、人件費です。つまり私たちの給料ですよ。企業の経費でもっとも大きなものは、通常は人件費です。ここに手を入れてしまうわけです。というわけで、世界の平均年間賃金(購買力平価)の推移を見ていきましょう(図表6)。
【中村】先生、日本だけが地を這っているように見えるのですが……。
【森永】現実を見ましょう。先進国どころか、発展途上国を含めても、ここまで実質賃金が上がっていない国は日本だけ、むしろ下がっています。もちろん、基準年に対してどれだけ上がっているかというグラフなので、より長期のグラフにすれば日本より低い数字の国もあるかもしれませんが、こと先進国においては給料が上がり続けるのが普通です。下がっている時点で異常です。
【中村】ちなみに先生、実質賃金とはなんでしょうか?
【森永】額面だけを見た数字が名目賃金、そこに物価の影響を加味した数値が実質賃金です。例えば中村くんのアルバイトの時給が1000円から1020円に増えれば、名目賃金が2%上昇したと考えます。それに対して物価が5%上昇してしまえば、賃金上昇以上に物価が上昇したことになりますから、買えるものは減りますよね。これが実質賃金です。
【中村】なるほど、たしかに……。
【森永】コアコアCPIはほとんど変動していないにもかかわらず、日本の実質賃金は大きく減っています。消費税の増税や社会保険料の増加も要因の1つでしょう。日本は労働基準法によって、解雇や減給がしにくい労働環境になっています。しかし昇給もなかなかされず、さらに非正規雇用や個人事業主が増えたことによって日本全体の給料が減り、実質賃金が低迷していると考えるのが自然です。
日本は政府支出が足りなさすぎる
【中村】先生、日本経済はどうしてこんなに長い間停滞しているんでしょうか? 「世界第3位の経済大国」と聞いていたのに、こんなにずっと成長していないなんて……。
【森永】簡単です。政府による支出が足りないからです。
【中村】ええっ⁉ でも日本政府って毎年税収以上に支出していますよね? たしか税収60兆円前後に対して、歳出100兆円とか。それでも足りないんですか?
【森永】はい、全然足りません。たしかに日本政府の歳出は税収よりはるかに多く毎年赤字ですが、それでも全然足りないんです。
【中村】何をもって「足りない」というんでしょうか?