企業物価指数は上がっているが…

もう1つ、日本独特の数字が現れているデータも見てみましょうか。「企業物価指数」というデータです(図表5)。企業間で売買される原材料等の物価変動ですね。工業製品・農林水産物・鉱産物・電力・都市ガス・水道です。

【中村】あれ? こっちはけっこう上がってる。

【森永】その通り。国内物価指数だけは動きが鈍いですが、輸入物価指数は円ベース、契約通貨ベースも概ね同じような動きで推移しており、企業同士が売買するモノの物価は上がっています。にもかかわらず、先ほど見たコアコアCPIは非常に鈍い動きです。で、これは現実のどんな現象を意味しているのか? ということを考えてみましょう。

中村くん、子どものころに比べてお菓子が小さくなったとか、お弁当の箱が底上げされて中身が減ったとか、感じたことはありませんか?

【中村】あります。自分が成長して体が大きくなったから、相対的に小さく感じるのかなと思ってたんですが、やっぱり小さくなってるんですね。

【森永】企業物価指数は上昇傾向にあるので、お菓子やお弁当を作るメーカーからすると、商品1個当たりの生産コストは上がっています。通常はコストが上がった分、販売価格も値上げしますが、日本はずっとデフレ、低インフレなので、販売価格をほんの少し上げるだけで消費者に買われなくなってしまうんです。そこで企業が考え出したのが「ステルス値上げ」です。

【中村】あー、よく聞きます。テレビでも話題になってますよね。

【森永】そうですね。最近になって大手メディアでも言及されるようになりました。お菓子1個当たりの内容量を減らして小さくしたり、お弁当の箱で嵩上げして中身が減ったことをわからないようにしたりして、代わりに値上げはしないという手法です。

コンビニの弁当
写真=iStock.com/akiyoko
※写真はイメージです

企業は原材料価格の上昇を価格転嫁できていない

しかし消費者から見れば、同じ値段でも中身が減っているので、実質的に値上げと同じ。ステルス値上げによる実質的な値上げは、CPIにも反映されていると言われています。しかし、現実として「企業物価指数の上昇と比較すると、コアコアCPIの上昇は緩やか」というデータがある以上、企業は原材料価格の上昇を価格転嫁しきれていない、ということが言えるでしょう。

企業物価指数と消費者物価指数の乖離かいりは、お菓子やお弁当が小さくなる程度ですむならまだいいんです。しかし問題はもっと深刻です。モノの仕入れ価格が上がるなら価格に転嫁させないといけませんが、日本ではほんの少し値上げするだけで売上が激減してしまう。となると、ステルス値上げでも吸収しきれないほどの仕入れ高がいずれ訪れます。中村くん、そこで削られる経費はなんだと思いますか?

【中村】えー、なんでしょう、電気代とかでしょうか?