とは言っても、民主党の政治家だけで政府の実務を運営できるわけではありません。挙句の果てには、政務三役が自分でパワーポイントの資料を作成していたとか、某大臣が官僚との昼食会を全員で割り勘にしたなどというバカバカしい逸話が山ほどできてしまう有様です。

2010年6月8日、菅直人氏が内閣総理大臣に就任
2010年6月8日、菅直人氏が内閣総理大臣に就任(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

内閣法制局長官の国会答弁を廃止してみたはいいけれども、閣僚が自力で答弁できるわけではないので、結局は元に戻すことになるなど、右往左往するわけです。一事が万事、この調子です。

自民党は徹頭徹尾、官僚の振り付けで踊るのが上手な政党でした。民主党政権はそれを否定しようとして、単に踊れないだけの無能者と化してしまいます。ほどなくして政権運営につまずきます。その結果、徐々に民主党は官僚依存に傾いていき、自民党以上の官僚政権に戻っていくこととなりました。

最初からそれを見越して準備していたのが財務省です。

できもしないことをやろうとして自爆した

象徴的な光景があります。平成22(2010)年1月26日の参議院予算委員会でのことです。

菅直人財務大臣は、自民党の林芳正議員から「乗数効果」について質問されて、何も答えられませんでした。以後、財務省に頼りきりになったとか。

野田内閣の頃に流れた怪文書です。「財務省は歴代大臣を洗脳するのに、菅直人は3カ月、野田佳彦は3日、安住淳は30分」とか。この数字、色々入れ替わっていますが、「菅>野田>安住」の順は一緒です。ひどいバージョンになると「安住大臣は3分」です。

しかし、日銀の某企画担当理事は民主党の部会に来て経済が専門の議員から「ナイルについてどう思うか」と聞かれ、何のことか知らなかったとか。

NAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)とは、自然失業率のこと。一定の水準で必ず出てくる失業者の比率です。将来の日銀総裁を嘱望されるような人が、経済の基本的な用語を知らなくて済むのでしたら、政治家である財務大臣が乗数効果を知らなくて何が問題なのかと思いますが。専門の行政は官僚がやればいいのであって、政治家は官僚を使いこなすのが仕事ですから。

民主党が愚かだったのは、官僚を使いこなすのに、官僚の仕事を官僚以上に詳しくなければならないとの強迫観念を抱き、できもしないことをやろうとして自爆したことです。

政治家が官僚の仕事に官僚より詳しくなければならないなら、法務大臣は起訴状を書けねばならないのでしょうか。そんなはずがありません。法務大臣が付き合う法務官僚は検察官の資格を持っていますから、起訴状を書けます。政治家の仕事は別にあるはずです。