50歳前後は介護、子育て、仕事の負担が増大

年齢と幸福度の関係がU字型になる2つ目の理由として、50歳前後で親の介護と子育ての二重の負担がのしかかり、幸福度を低下させるという説があります(※2)

50歳前後になると親も高齢で介護が本格的に必要となる場合が増えてきます。また、子どもがいればちょうど大学進学の時期と重なり、金銭的な負担もピークとなります。これらの負担が重くのしかかり、幸福度を低下させるわけです。

また、仕事面では中間管理職として働く時期であり、仕事の責任もストレスの原因となります。日本の場合、『賃金構造基本統計調査』が示すように、直近の十年間で課長以上の管理職になれる比率が徐々に低下しているため、そもそも管理職になれない場合も増えています。管理職になったらそれはそれで大変なのですが、なれない場合はより大きなストレスとなるでしょう。

このように仕事面でもストレスが多い時期であり、幸福度が低下する原因になっていると考えられます。

幸福度低下への対策の1つ目は「お金」

これまで見てきたとおり、幸福度と年齢の関係はU字型になっており、50歳前後で幸福度が落ち込む傾向にあります。

しかし、近年の研究の結果、幸福度の落ち込みが見られなかったり、その落ち込みが小さく済む場合があることが明らかにされてきています。

その鍵となる要因は2つあります。1つ目は、ズバリ「お金」です。

オランダのライデン大学のトシュコフ准教授は、年齢と幸福度の関係が所得水準によってどのように変化するのかを検証しました(※4)。その分析の結果、所得を10段階に分割した場合、所属する所得階層によって年齢と幸福度の関係が大きく異なることがわかりました。

金融リテラシー
写真=iStock.com/William_Potter
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彼の分析の結論は、「高所得階層に属する場合、幸福度と年齢の関係はほぼフラットになり、50代における幸福度の落ち込みは観察されない」というものでした。

この結果から、高い所得が50歳前後の理想と現実のギャップを解消するだけでなく、介護や子育ての負担にも対処していると解釈できます。

彼の分析によれば、所得が最も低い階層の場合、年齢と幸福度の関係がホッケースティックのような形状になると指摘しています。ホッケースティックということなので、ある時期まで減少し、その後少し上昇するといった具合です。より具体的には、50歳になるまで幸福度が低下し続け、その後少しだけ幸福度が上昇するという形になっていました。

また、所得が中間層の場合、幸福度と年齢の関係はU字型になるものの、50代における幸福度の落ち込みは低所得階層よりも小さくなっていました。

(※4)Toshkov, D. The Relationship Between Age and Happiness Varies by Income. J Happiness Stud 23, 1169–1188 (2022).