健康診断のエビデンスへの疑問

現在、日本の健康診断では50~60項目に関する検査を行うのが一般的だと思いますが、これらのうち、健康に影響するとはっきりエビデンスのあるものは血圧や血糖値などせいぜい5項目くらいです。

つまり、血圧や血糖値がものすごく高い場合などは、その時点や将来にその人の体に明らかによくないことが起こる(これも確率論ですが)と認められるものの、それ以外の項目に関しては、数値がよかろうと悪かろうとほぼ当てになりません。

健康診断を受けた人がコレステロールや血圧の数値になぜ一喜一憂するかといえば、異常値が原因となって起こるといわれている動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞などの重篤な病気になることを恐れ、予防したいと思っているからでしょう。

しかし実際は、健康診断で悪い数値が出て、その後もほったらかしにしていたのに心臓の血管がほとんど狭くならない人もいれば、逆に、まったくの正常値だったのに心筋梗塞で倒れる人もいるのが現実です。

それ以上に問題なのは、日本では、健康診断と健康状態のリンクを長期の大規模調査で追跡した研究がほとんどないことです。

この手の研究を日本の大学病院の医者が嫌うのと、厚生労働省が事態を把握しておらず研究のスポンサーがいない(薬を増やす研究は製薬会社がスポンサーになります)という事情からです。そのため、疾病構造も食生活も異なる海外のデータを無理に信じ込まされているというのが実態なのです。

ダイエットが体の老化を進める

健康状態にある人が、「減らす」選択で、わざわざその状態を逸脱しようとしています。とくに問題なのが中高年のダイエット。

腹囲を測る人
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血糖値や血圧に問題がなく、やや肥満という人が食事の量を減らしていくと、ビタミンやたんぱく質、コレステロールなどの栄養が足りなくなってしまいます。そのため、代謝を悪くして老化を進めてしまうのです。

ブドウ糖をエネルギーに変えていく過程には、ビタミンなどの物質が欠かせません。不足すると、摂取したカロリーをエネルギーとして有効活用できないのです。うまく消費できなければ、脂肪の形でたまっていきます。基礎代謝が悪い体、すなわち「歳をとった体」になるわけです。

すると、お腹が空いて辛い思いをしているのに全然やせない、という悪循環が起こってしまいます。

中高年でよく「若いころよりずっと食が細っているのに太る」という人がいますが、これは代謝が悪くなっている典型的なケースです。

概して「足りない」ほうが「余っている」よりも体や脳に悪い。しかも歳をとればとるほど、不足したことによる害が出やすい。これは、体の恒常性を乱すようなことが起きたときに、適応の幅が狭くなるからです。