ウクライナ全域のブラックアウトは避けられない

加えてプーチン氏はここにきて、証拠も示さぬまま、「ウクライナが放射性物質を拡散するダーティーボム(汚い爆弾)を開発している」という主張も始めた。

また、ウクライナは2014年に発生した「ロシア・ウクライナ紛争」以来、東部の石炭産出ができなくなり、さらにロシアに頼っていた天然ガスも不払いなどを理由にしばしば止められるようになったため、電力供給の原子力発電に対する依存割合が年々増し、現在は6割弱を原子力発電でまかなっている。ウクライナはフランス、スロバキアに次ぐ原子力発電依存国なのだ。

稼働中の原子力発電所
写真=iStock.com/were1962
※写真はイメージです

したがって、ロシアがウクライナの原子炉15基をすべて押さえて停止させたら、ウクライナ全域がブラックアウトして、工場も操業できなくなる。つまり、工業を全部乗っ取ることができる。そうしたら、さすがのウクライナもへたってしまうだろう。

だが、どんな理屈で自分たちの行為を正当化しようと、原発に対する攻撃だけは許されるものではないし、絶対に許してはならない。

「ミンスク合意の破棄」で堪忍袋の緒が切れた

以上のように「我々はEUとNATOに入る、核も持ちたい」と平然と口にするウクライナのゼレンスキー大統領に対し、ロシアのプーチン大統領はかなり立腹していたに違いない。そして、ゼレンスキー氏が次にとった態度で、プーチン氏は完全に堪忍袋の緒が切れた。ミンスク合意の破棄だ。

2014年3月、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合した後、親ロシア派武装勢力がウクライナ東部のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)2州の一部地域を占拠したことで、紛争が勃発した。翌2015年2月、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランス4カ国の首脳が、ベラルーシの首都ミンスクで会談を行い、なんとか停戦合意がまとまった。これがミンスク合意である。

この合意の中には、「ウクライナ東部親ロシア地域に『特別な地位』を与える恒久法の採択」という項目がある。ドネツク、ルガンスクの東部2州の住民は、ロシア系が約4割を占める。そのロシア系の多い東側の地域(ロシア系が7割に達すると言われている)に、ウクライナは「自治権」という特別な地位を与えることになっていたのだ。