日本独自の企業文化では新しい時代に対応できない
日本ではかつて、「会社の寿命は30年」と言われた時代があったが、世界に目を向けた競争を考えると、その寿命はどんどん短くなってきている。
その中で、これまで見てきたように、新規成長領域への資源配分ができない状態というのは、会社という単位での変革=トランスフォーメーションができていないということだ。
同質性の高い(=勤続年数が長い)社員により、コミュニケーションが濃い中で暗黙知を形成し、献身的な就業態度に支えられてきた独特の企業文化が日本企業の強みであると言われた時代があった。だが、その文化が成長に貢献したのは、企業を巡る事業環境に合っていたからだ。
ゲームのルールが変わった時代においても、昔ながらの意思決定を続け、その意思決定の前提となる年功序列的な発想がいまだに残っている。そんな状態で、失敗による学習を奨励することや、成長のためにリスクを取る意思決定など、資源配分も含めて実行できる理由が見当たらない。
変革に成功した日立と富士フイルム
もちろん、日本企業であってもトランスフォーメーションに成功している企業はある。
例えば日立だ。約9兆円の売上高を誇る企業グループで、グループ企業再編として子会社・関連会社の整理・売却を進めて、事業ポートフォリオ、市場ポートフォリオを組み替えて再浮上した。
例えば送配電事業においては、海外市場での成長を前提とした戦略を考え、国内におけるしがらみである日本企業との合弁企業を解消した。
そして、スイスに拠点を置く多国籍企業のABBグループとの提携を進めつつ、最終的には同グループの送配電事業を買収してしまった。
縮小していく日本市場ではなく、世界市場の成長を見据えた戦略を取った結果だ。巨大企業だけに時間はかかったが、10年という単位で見ると、日立の事業ポートフォリオは大きく変わった。
また、銀塩写真・フィルムという市場が実質的に消滅する中、実際にコダックが市場から消えた一方で、事業ポートフォリオを組み替えて生き残った富士フイルムも、トランスフォーメーションを実現した大手日本企業として挙げられるだろう。
これまでの成長市場は、いつか成熟市場になる
この2社に共通することは非常に単純だ。成長市場と衰退市場を意識し、自社の事業のポートフォリオを成長市場に寄せるという意思決定をしていることだ。同時に、縮小や撤退する事業を決めて、その決定を明確に実行したということだ。
このように、これからの日本のために重要なのは、これまでの事業を止める、または縮小する、ということとセットにした意思決定と実行力が同時に必要ということだ。
これまでの成長市場は、いつか必ず成熟市場になり、衰退を始める。それを見越して「変革を日常」にして、普段の努力と変革を実行するためのケイパビリティをつけることが必要になってくる。