日本にもインフレの波は押し寄せてはいるが…

企業物価指数とは、企業間で取り引きされるモノの価格を示す経済指標だ(図表1)。

2021年12月の企業物価指数は前年同月比+8.5%となっており、消費者物価指数と比べると、他国の消費者物価指数と同様に高い伸び率となっている。同時に発表された2021年通年の企業物価指数は前年比+4.8%で、伸び率は比較が可能な1981年以降で最大だ。これほど企業物価指数が上昇している1つの要因は円安にあるということは円ベースの輸入物価指数の上昇をみればわかるだろう。

それでは、なぜ企業物価指数は世界的なインフレの影響を受けているのに、消費者物価指数には反映されないのか。その理由を探るべく、企業物価指数を需要段階別に分解してみよう(図表2)。

素原材料の上昇率は非常に高いが、中間財、最終財と消費者が購入する財に需要段階が近づくにつれて、上昇率は大きく縮小している。つまり、これらのデータからわかることは、日本にも諸外国と同様に世界的なインフレの波が押し寄せているものの、現在は企業がコスト増をのみ込み、なるべく販売価格には反映しないように企業努力をしているからといえる。

世界的に物価が上昇していく中で、日本では企業がコスト増をのみ込んでいると書いたが、これだけをみれば日本企業が良心的で非常に優秀だと思うかもしれない。しかし、実態は価格転嫁したくてもできない、というのが企業の本音だろう。

日本の全産業の3割がコスト増を価格転嫁できない

企業がコスト増を販売価格に転嫁できているかどうかを示す指標の1つに「マークアップ率」というものがある。聞きなれない言葉かもしれないが、この指標は販売価格とコストの比率と定義されており、独立行政法人経済産業研究所が発表している産業別の平均マークアップ率は以下の式で算出している。

産業別平均マークアップ率=(要素費用表示のGDP+中間投入)/(資本コスト+労働コスト+中間投入)−1

この値がゼロより大きければ企業が価格支配力を持っており、数字が大きいほど価格転嫁が容易な産業といえる。

最新のデータは2018年のものとなるが、マークアップ率がマイナスとなった産業は100業種のうち32業種に上る。日本企業はコスト増となっても価格転嫁できない産業が全産業の3割を超えているという実情が浮き彫りになっているわけだ。

本項で確認した企業物価指数と消費者物価指数の乖離かいりこそが、本書のメインテーマである「スタグフレーション」の本質に迫るポイントといえる。